無自覚な悪意が見事なまでに気持ち悪い 映画“先生を流産させる会”

自覚のない悪意とコントロール不能な集団心理が見事なまでに気持ち悪く描かれ、思春期の女の子達の気持ちをあれこれ想像させます。

“サワコ、セックスしたんだ。気持ち悪くない?”

事の発端は中学校教諭のサワコの妊娠を知ったミヅキの言葉でした。

ミヅキは仲間4人とつるんで、ラブホテルの廃墟を溜まり場にし、いたずらをするという日々を送っています。

ミヅキの嫌悪感に促されて彼女たちは“先生を流産させる会”を結成します。

ミヅキちはサワコを流産させようと、理科の実験の最中に盗んだ薬品をクラスの生徒が見ている前で平然とサワコの給食に混入し、それを食べたサワコは保健室に運ばれます。

その後のホームルームで、心当たりのある生徒は先生に手紙を書くようにと命じます。

その手紙の一枚にミヅキたちの名前が書かれていて、サワコは彼女たちを残し「もし、自分の赤ちゃんが誰かに殺されたらどうするのか?」と厳しく問い詰めるのです。

サワコは彼女たちに「私は赤ちゃんを枯蘆し他にんげんを殺す。私は先生である前に女なんだ」と、彼女たちを絶対に許さない怒りをあらわにします。

しかし、悪意のないミズキたちの嫌がらせはエスカレートしていき、それに対してサワコは大人として、女として彼女たちに立ち向かいます。

 

冒頭に、公園で飼育されているウサギをミズキが放り投げて殺し、他のメンバーはそれを見て笑います。しかしミズキは「何がおかしいの?」と笑ったメンバーに問いかけます。

ここで、思春期の彼女たちが抱えている、悪いこととわかっていてもグループの空気に迎合しないと何をされるかわからないというような矛盾が現れていると思うのです。

サワコへの嫌がらせだけでなく、街や廃墟のラブホテルでのいたずらなども、悪意や罪の意識が感じられないだけに、見ていて本当にイライラしてきます。

いたずらやサワコへの嫌がらせはミズキが主導しています。他のメンバーはそれがはけ口かのようにケラケラ笑っていますが、ミヅキだけは少しも楽しくもないかのようです。そんな様子がミヅキの成熟していない心の難しさを感じます。

笑っている他のメンバーも罪の意識まではないにしてもどこか後ろめたさを感じ、やめようとしても集団の空気に迎合しないとどんな嫌がらせを受けるかわからない恐怖から、悪いことから抜けることがなかなかできない雰囲気がよく伝わってきます。

メンバーの一人はミヅキに呼び出され、廃墟のラブホテルで、ミヅキと二人で理科室から盗んだ薬品で有毒ガスを発生させようと薬品を混ぜていました。そこへその母親とサワコが探しにやってきて、ミヅキは薬品を床にぶちまけ薬品の調合を手伝っていたメンバーを閉じ込めてガス中毒にしてしまいます。

最初はサワコへの嫌がらせのためにガスを発生させようとしていたのでしょうが、もしかするとミヅキとのつながりを母親に遮断されたメンバーへの報復だったのかもしれません。

この親が先程からのモンスター・ペアレントであり、娘が何をしたかを知ろうともせず“うちの子がそんなことをするはずがない”と盲目的に擁護し、娘からですらウザっと思われる程に世話を焼く母親なのです。ある意味ミヅキたちよりもこっちの方が気持ち悪いです。

結局サワコにより一人にされたミヅキは力づくで、凶器でサワコの腹部を殴り流産させてしまいます。

その直後娘が生命の危機に晒されたことに対して、モンスター・ペアレントの母親はミヅキに襲いかかりますが、「女子どもを傷つける人間は絶対に許さない」と言っていたサワコが、体にも心にも傷を追っていてもミヅキを守ろうとする。そんなところに彼女の大人としてあるいは教師としての強さを感じました。

ミヅキを演じた小林香織をはじめ、その仲間は演技の経験のない子ども達をキャスティングしています。下手にアイドル子役や美少女モデルを使うより、すごくリアルな感じがしますね。

また彼女たちに立ち向かうサワコを演じた宮田亜紀はキリッとしてカッコイイと思います。

くすんでいるというか滲んでいるかのような映像のトーンや、表情に影のあるようなライティング、カットインされる、アリがたかる鳥の死骸や枯れようとしているヒマワリが、思春期特有の自覚のない悪事やわかっていても集団から抜けられない行き詰った空気感を印象づけているように思います。

サワコが流産した子どもを供養するのにミヅキがついてくるのですが、ここまで気持ち悪さを描いたのだからサワコが胎児をミヅキに見せ「無かったことにはできない」と言う言葉を刻み付けミヅキを追い詰めるのかと思いきや、意外とあっさりと裏切られてしまったような感じもします。

 

ミヅキがなぜこのような行動に走ってしまったのかは、思春期だからとか、家庭に何らかの事情があるからというだけではないのかもしれません。

確かにミヅキたちが体罰を受けたことを講義するためにモンスター・ペアレントの母親が他のメンバーの母親を引き連れ学校にやってきた時にもミヅキの母親はいませんでしたし、サワコがミヅキの母親に電話をかけてもつながらないなど何かワケアリの事情があるように思います。

深読みし過ぎかもしれませんが、ミヅキがセックスしたことが汚らしいと言ったのは、セックスに対して嫌悪感を抱いてしまうような家庭の事情があり、さらに自分の中にある理想の大人、あるいは信頼できる大人というサワコのイメージが壊れてしまったことにショック抱いたのではないかと想像します。

ミヅキのよりどころとなっていたサワコが出産すれば、産休をとり、子育てに気を取られたりで、ミヅキから離れていってしまうことに対して、無意識に危機感を抱いたのではないでしょうか。

そうした危機感が“サワコの妊娠=裏切り”という受け止め方となり、子どもが産まれなければサワコは自分から離れないといういびつな思いが行動に現れたのではないかとも考えます。

この映画は2009年に愛知県の中学校で実際にあった事件をヒントに作られたということです。

中学生がいじめを苦に自殺した事件に関する報道が行き交う今日この頃に、同年代の心理に触れるタイムリーな映画だと思いました。もちろん命の大切さやいじめは悪いことだというのは重要なことなのですが、この映画はそうした綺麗事だけでは受け止められないように感じます。

 

2012年07月13日 新潟・市民映画館シネ・ウインドにて鑑賞(07月20日まで上映)
おすすめ度:★★★★☆
タイトルがショッキングなだけにもっとドロドロしていると過剰に期待してしまいましたが、意外とあっさりしたました。

監督・脚本・製作:内藤瑛亮
出演:宮田亜紀 (並木佐和子)、小林香織 (美月)、高良弥夢 (町村文穂)、竹森菜々瀬 (三枝明奈)、相場涼乃 (瀧澤詩音)、室賀砂和希 (仲咲真央)、大沼百合子(町村千鶴)
2011年 日本作品

【リンク】
“先生を流産させる会”公式サイト
先生を流産させる会@ぴあ映画生活