孤島の王

“大人たちの保身や嘘のため抑圧され鬱屈しながらも、友情や自由へのあこがれを抱き続けた少年たちの純粋な姿に感動しました

【あらすじ】

舞台はノルウェーの本土から4kmほど離れた孤島バストイ島。そこには1900年~1953年の間非行少年の矯正施設がありました。

1915年罪を犯した船乗りの少年エーリングが連行されてきます。

エーリングはもうすぐ卒業となる寮生のリーダー的存在のオーラヴから施設の規則や作業を教えてもらうことになります。エーリングは反抗的な態度をとり続け、度々懲罰を受けます。

この矯正施設は近隣諸国の模範的な施設として高く評価されていたとのことですが、実態は嫌がらせとも受け取れる重労働、ただですら十分な食事ではないのに何か問題が起きると食事を減らさす懲罰を受けるなどがあたりまえのようになっていました。

エーリングはボート小屋からボートを盗み出し一度脱走を試みますが、失敗します。

しかしその後、寮長により性的虐待を受けていた少年が、耐え切れなくなり自殺をします。

少年たちは、このことを都合よく隠蔽する大人たちの嘘に怒りを大きくしていきます。

 

【映画を観て】

この施設では少年たちは名前で呼ばれることはなく、エーリングはC19と呼ばれます。もうこの時点で少年たちの人格は否定されていると言えるでしょう。

院長や寮長が気に入らないことがあると、連帯責任で寮の全委員はより過酷な重労働と食事を減らされるなどの罰を受けます。

反抗的な態度をとったC19は、吹雪の中重たい石を運ぶ労働を課せられます。しかし、運び終わろうとしたところ、院長がやってきてその石を全部元に戻せと命じます。どこかで囚人などの心を折るには穴を掘らて、それを埋めさせるという無意味な作業を繰り返させることがあると聞いたことがあります。

また、一部の少年たちは自分たちをよく評価してもらおうと、他の少年の不正を大人に告げ口もしているようでした。

施設の少年たちは、大人たちによく見られなければここでは生きていくことが難しく、卒業もできません。そのためには自分の気持ちをを押し殺して生きて行かなければならず、彼らの表情は鬱屈した暗い表情の少年たちばかりです。

しかし、寮長に性的虐待を受ける少年は、最初“おまえは歌がうまいから、今度理事たちの前で歌うことになった。練習するから来てくれ。”と呼び出されます。少年は作業はあまり得意でなかったので、なにか一つでも自分が認められたことが嬉しかったのでしょう。その時の笑顔はとても明るかったのです。

寮の中で優等生でありもうすぐ卒業のオーラヴとエーリングは対照的なキャラクターです。オーラヴは大人たちのいうことに従順に従っていれば早く自由な世界へ開放されると考えているようですし、エーリングは大人たちに対抗して自ら自由を手に入れようとしているようです。しかし、正反対の二人でもお互い何かと気をかけるようになります。

エーリングは自分が考えている捕鯨船の物語をオーラヴに語ります。時間が経過するに連れ、捕鯨船の乗組員にはオーラヴや親しくなった少年たちが例えられるようになります。大人たちの気分で理不尽な目にあう描写が多い中で、こうした感じで友情が育っていく様子は控えめでありながらも見る人の心をとらえます。

寮長からの性的虐待を受けていた少年はエーリングが脱走するときに自分も連れて行って欲しいと頼みましたが、足手まといだと断られます。その後彼は海に身を投げ自殺します。エーリングが引き上げた遺体の衣服からはおもりにしたのだろうと思われる石がゴロゴロ出てきました。

しかし、院長はその少年は脱走しようとして溺れ死んだと少年たちに言い、理事たちが訪問した際は自分たちの管理責任を問われないように、少年たちからのいじめを苦に自殺したと言います。

これが少年たちの怒りに火をつけるのでした。

また、院長は寮長を解雇しようとしますが、寮長は院長が施設の予算を横領していることを知っていて、解雇されればそれを暴露する可能性があります。そして院長が寮長の性的虐待を暴露すれば施設の評価は下がり院長自身も今の職を追われることになるでしょう。こうしたやましい事実を隠蔽し、お互いに暴露されないようにするために彼ら自身がこの島に囚われ自由を奪われているかのようにも思えます。

オーラヴは彼が自殺する前に院長にそのことをつたえようとしましたが、全く聞く耳を持ってもらえなかったことに強い怒りを抱いていました。

オーラヴの卒業が決まり、この島を去るときに、彼はその怒りを寮長にぶつけます。取り押さえられたオーラヴたちは監禁されますが、寮長にいつもひどいように言われている使用人が彼らが逃げ出すチャンスを与えてくれます。きっとまともな大人ならこの施設の少年たちの扱いに嫌悪感を抱くのではないでしょうか。

彼らは監禁から逃げ出し、施設の少年たちはこれまでの鬱屈した気持ちを爆発させ暴動を起こし、島の大人たちを次々に襲います。

大人たちは舟でどこかへにげ、それを制圧しようとやってきたのは軍隊でした。

エーリングとオーラヴは軍隊の追跡を逃れ凍った海を渡って本土へ行こうとしますが、途中氷の薄いところエーリングは命を落としてしまいます。その後オーラヴは幻を見ます。それは捕鯨船の様子です。これは大人になったオーラヴのことを描いているのか、それともエーリングの物語を思い出しているのかはわからないです。

このタイトルにある“王(=Kongen)”について少し考えてみようと思います。いろんなライトノベルや映画でも王と呼ばれる人々が登場します。彼らは確かに地位や権力、経済力を手に入れ通り巻きにチヤホヤされています。しかし、“英国王のスピーチ”にもみられてように、そうした人ほど自分の感情を外に出すことが許されないのですし、取り巻きが多くても彼らに心情を吐き出すわけには行きません。王というのはある意味ではそこそこの暮らしを送る庶民よりも孤独なのかもしれません。

エーリングもオーラヴもお互いの訴状やどうしてここに連れてこられたのかお互いに知りません(禁止されているためもある)。大人たちに自分たちの気持ちを理解してもらえず、ともすれば仲間たちからの裏切りにも合う世界で、彼らが信じるのは自分自身だけなのだと思うのです。そうしたことからこの島の少年一人一人が王なのだと想像します。

力のある大人が何の力もない少年たちを抑えつけ、自由へのあこがれやそこで育まれた友情の純粋さに感動しました。

エーリングの物語に登場する銛を3本打ち込まれながらも一晩生き延びたクジラは誰を例えていたのかはこの映画の不思議なところです。物語の中でエーリングは銛撃ちでしたが、それと同時に自分自身の運命をクジラに例えていたのかもしれないですね。

 

2012年09月01日 新潟・市民映画館シネ・ウインドにて鑑賞(09月14日まで上映)

おすすめ度:★★★★★4.5
ドラゴン・タトゥーの女でも感じましたが、北欧の冬の風景は少年たちの鬱屈した心情や閉塞的な環境を美しく印象づけているなとも感じました。

原題:Kongen av Bastoy
監督:マリウス・ホルスト
出演:ステラン・スカルスガルド、ベンヤミン・ヘールスター、クリストッフェル・ヨーネル、トロン・ニルセン
2010年 ノルウェー・フランス・スウェーデン、ポーランド作品

 

 

【リンク】
“孤島の王”公式サイト
孤島の王@ぴあ映画生活
象のロケット

「孤島の王」への2件のフィードバック

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