“不思議”取り扱います 付喪堂骨董店 7

付喪堂骨董店シリーズ最終巻となりました。いろいろネタバレしちゃいますがお許し下さい。

前巻では、アンティークの力で世界を変えようとする駿と飛鳥との戦いで、駿があきらめないと言っていたので登場するかと思っていましたが、それっきりでした。(意外とあっけなかったな)

この巻は前の巻の最終章にも書かれていた咲と刻也の出会いと別れについての真相が明らかになります。

咲と刻也が出会い、咲が命を落とすまでの出来事はこれまでに何度も繰り返されてきたというのが真相です。

刻也が最初に咲の死に直面したときに、”少しだけ死にたくなくなった”と言った咲の思いを叶えようと、助けを求めて訪れたのが付喪堂骨董店だったのです。

しかし、その店は“付喪堂骨董店リアル”と呼ばれ、刻也の知る店とは雰囲気が異なります。そこの店主“久遠刹華(くおんせつか)”は都和子とよく似ていながらも全く雰囲気が正反対な女性です。これまで度々登場していた姉妹店とはここだったのです。

刹華の店は求める人にアンティークを与え、都和子の店”フェイク”はアンティークを与えないようにする、訪れる人によって店や店主が入れ替わる仕組みになっています。

刹華の店で刻也を選んだアンティークは、ある地点まで世界が戻り、起きてしまったすべてのことが幻となる“ファントム”というものでした。世界が戻る時に、世界中の出来事や記憶がリセットされ、同じ歴史をたどることになります。しかし、異なった行動を取れば本人にも誰にも気づかれることなく人生をやり直すことも可能ということです。

刻也は咲が死んでも自分と再びめぐり逢えるようにと、ファントムを咲の胸に突き立てたのでした。ファントムの力は、咲が死ぬと、咲と刻也が出会う前まで世界を戻すのです。

つまり、今までの話というのは、幾度と無く繰り返されてきた時間の中で、本来の運命とのズレで生じた出来事だったのです。

また、自分の関わった人の死を予見するアンティーク”ヴィジョン”は咲の義眼となっていました。じゃあ刻也がいうヴィジョンが見せた映像は、未来のものではなく、忘れてしまった過去に経験した記憶の残滓だったのですね。

しかし咲は繰り返される出来事のすべてを覚えていて、繰り返される時間の流れの差異の中には、自分ではなく刻也が先に死んでしまうということもありました。そのとき咲が刻也に再び逢いたいためにとった行動は読んでいて切なくなりました。

そんな運命の繰り返しが多くの人々の死を弄んでいることに心を痛めた咲は、都和子にこの運命の繰り返しを断ち切ってもらおうと頼みます。

話はそれますが、5巻に登場した災厄の壺から脱出するための“真実を忘れる”ということや、コトノハに対するヒトの“忘れてしまうと思うけど、思いは消えない”という思い、そして災厄の壺に閉じ込められた時の咲の“過去は変えられないの?”“あなたは優しい、そして傲慢だわ”という言葉など、5巻を読んでいたときに自分の中にうまく落とし込めない事象や台詞がありましたが、この巻でそれらがストンと自分の中に落ちてきました。

しかし、刻也は都和子に反発します。運命を断ち切れば二人は二度と会えなくなるというのは咲が一番良く知っていると思うのです。

本当にこのまま都和子によってもたらされる咲の死が、二人を分かつかわいそうな終わりを予感させます。

そして最後の出会いになるだろうという時が再びやってきて、咲は事の成り行きを分かっていながらも刻也の姿を求めます。しかし、刻也は咲のことは一切記憶にないのですが、火事になったアパートから、咲のことが刻まれたいくつかのアンティークが出てきます。

このとき都和子は運命を絶とうとしていますが、それでも刻也が咲への気持ちを思い出すことで二人は救われたように感じました。

刻也のアパートで見つかったアンティークの中には以前刻也が咲にプレゼントしたペンダントが入っていました。このペンダントが刻也が咲のことを思い出す鍵となります。アンティークの中にはそれを使っていた人の思いが道具にやどり不思議な力を持つようになるものがあると言われますが、この瞬間まさにアンティークの誕生を目撃することになります。

そして、刻也が咲のことを思い出したときに、刻也の傲慢なやり方で咲の魂は救われたのではないかと思います。

刻也はファントムと都和子が切り札にしている運命を帰ることのできるアンティーク“魔導書”の切れ端を使い、新たな形で運命の繰り返しを作り出すのです。

世界の時はよどみなく流れるなか、出会いと別れを繰り返しながら思いを永遠に紡いでいく二人はロマンチックでもあり物悲しくもありますが、幸せを少しずつ重ねていって欲しいと思います。

 

これまでの物語の多くは、同じ事象を刻也の視点から、咲の視点から繰り返して書かれていることが多くシリーズの特徴だとも言えると思います。しかし、この二人の視点の記述にはどことなくズレを感じることも時々ありました。

咲と刻也の真実をこの最終巻で知ってしまうと、これまでのそうした記述のズレについても納得してしまいます。

また、何気ない咲や刻也の言動にもこの真実を予感させるようなものがあるかもしれません。

きっともう一度1巻から再読すると、見過ごしてきたことも見えるようになり。理解に苦しんだところもすんなり納得できたり、違う物語として読むことができそうな気がしますので、機会があればシリーズを再読してみたいなと思います。

 

2012年08月24日読了
★★★★★
あとがきにある“それでは付喪堂骨董店、これにて閉店です”という一文が何となく後味が良い感じがします。

 

“不思議”取り扱います 付喪堂骨董店 7
御堂 彰彦 (著), タケシマ サトシ (イラスト)
アスキー・メディアワークス 電撃文庫
2010年03月発売

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