オレンジと太陽

“埋められない心の空洞を抱える子の頃に移送された人々の心の闇に根気よく真摯に寄り添うマーガレットの姿は素晴らしい”

1986年のイギリスのノッティンガム。社会福祉士のマーガレットは、ある晩、シャーロットという女性から“自分は誰なのか”調べて欲しいと頼まれ一冊のファイルを受け取ります。

そのファイルが気になり中を見ていくと、幼い頃ノッティンガムの児童養護施設にいたシャーロットは、他の子ども達とともにオーストラリアに移送されたということがわかります。

最初マーガレットは“子ども達だけで移民ができるわけない”とこの話は半信半疑でした。

調べてみると子ども達は養子に引き取られるわけでもないのに、イギリスからオーストラリアへ連れて行かれた子ども達が大勢いることを知り、マーガレットはオーストラリアへ向かい、そうした人々の話を聞き、彼らの願いを叶えようと奔走します。

【子どもたちだけの移民について】

イギリスからオーストラリアへ子ども達が送られていたのは1970年ころまで続いていたということです。
その子ども達は、親の貧困やアルコールや薬物の依存症などで育児ができない状態の親から引き取られたということです。
彼らはオーストラリアへ着くなり、教会や慈善団体などに引き取られます。しかし、そこで幸せに暮らせたかというとそうではなく、水や食料も十分に与えられずに過酷な労働にこき使われるばかりか、暴力や性的虐待は日常茶飯事だったということです。
そして、ある程度の年齢になると施設から出され、仕事に就くのですが。施設からは今までの衣食にかかった費用を借金として背負わせら、厳しい仕事に明け暮れたということです。

そして、イギリスの家族には“お子さんはオーストラリアで養子に引き取られ、幸せに暮らしている”と伝えられたということです。

こうした子どもの移送はマーガレットが調査し公表するまでは誰も知らなかった事象であり、関係した慈善団体や教会、そして国家ですらマーガレットの主張を認めようとはしませんでした。国家がこれらの関与を認め謝罪したのはこの映画の撮影中オーストラリアでは2009年、イギリスでは2010年のこととのことです。

第二次世界大戦中パリでドイツナチスがユダヤ人を逮捕した“ヴェルディヴ事件”にフランスの警察が関わっていたことを国が正式に認め謝罪したのは1995年でした。こうした国家の暗部を明らかにするのはとても勇気のいることでもあり、時間のかかることなのかと感じます。もしかすると日本でもこんなことが突然明るみに出ることがあるかもしれませんね。

【映画を観て】

オーストラリアへ連れてこられた子ども達は強制労働や虐待に怯える日々を送って来ました。こんな状況の中に置かれれば心のどこかが壊れてしまうのも無理のないことだと思います。

そんな彼らは成長しても常に心の中のどうしても埋めることの出来ない空洞を抱えて苦しんでいます。

それは“自分は誰なのか”、“母親や家族はどこにいるのか”ということなのです。

彼らがマーガレットと出会わなければずっとこうした気持を抱いたままだったのでしょうね。

マーガレットはオーストラリアに移送された子どもたちの話をもとに彼らの身元や肉親の痕跡を調べます。

オーストラリアに送られた孤児たちから家族の痕跡を探して欲しいという依頼は、オーストラリアとイギリスを行き来しながら親の出生記録や婚姻記録、本人の出生記録などの断片的な手がかりを一つ一つ調べていく根気のいる仕事です。

彼女が会った移民たちの中には“心から彼女を頼りにする人”、“そんなことを調べても意味が無い”という人と様々です。

この2つのタイプを代表するのは“ジャック”と“レン”の存在です。マーガレットを素直にたよりながらも自分もマーガレットの調査を手伝うジャックと、自分のことを知りたいがそんなことを知っても自分を捨てた親への恨みや子どもの頃の辛い経験を忘れられるわけではないと彼女を素直に受け入れられないのがレンです。

マーガレットは彼らが心の闇に封印していた記憶や気持ちを聞いていきます。それを真摯にうけとめて、調査をするばかりではなく彼らの心のケアまで献身的に活動をします。そんなマーガレットは姉や母親のような人だと慕われます。

しかし、教会がイギリスからの移民した子どもたちにこのようなことをしていたことが報道されると、教会がそんなことをするわけはないと毎夜のように彼女のオーストラリアの家は襲われそうになります。

一方では、家庭と離れて仕事を続けている彼女に対して、過程のことを顧みずにこんな仕事をしているあなたはおかしいとも避難もされます。家にいて欲しいと頼む子どもたち、身の危険を案じて早く帰ってくるように言う夫、一人でも多くの人々の心を楽にしてあげたいと思うマーガレットは家庭と自分の使命と感じたことの間で葛藤を抱いてしまいます。

最初はマーガレットに反抗的な感じのレンは“本当のことを知る”ということに大きな抵抗を抱いていたようなのです。それでも何かとマーガレッと合っているうちに打ち解けていきます。

仮に自分の身分や家族のことが分かっても、親は既に亡くなっていたり、親が生きていてもお互いに受け入れられなかったりと、簡単に解決に結びつかない場合もあるようです。

終盤でレンはマーガレットに“上っ面だけで本当の自分たちを見ようとしていないだろう”と話し、子どもの時に入れられた教会へ連れていきます。

この教会はマーガレットがイギリスからの移送された子どもたちが収容されていたことを暴露した教会です。

神父たちからちょっとしった嫌がらせを受けたことに対して”あなた達はわたしが怖いの?怖いわけ無いわよね?だってあなた達は大人なんだから”と言います。

裏返してみれば、あなた達は自分たちが大人だという力を使ってどれだけの子どもたちに苦しい思いをさせてきたかわかっているのか?と問い詰めているようにも思えます。

またこの物語では彼女支える家族の姿も印象的です。マーガレットの一家はオーストラリアで成長した孤児たちとクリスマスを過ごします。プレゼント交換で彼女の子どもが“君からみんなへのプレゼントはないの?”と訊かれて“ママ”ととても誇らしく応えます。マーガレットに家にいて欲しいと避難していた子どもたちからそんな言葉が発せられて、彼女の後ろめたさは和らいだのかと思います。

主人公のマーガレットを演じているのは映画“戦火の馬”で主人公の母親も演じていたエミリー・ワトソンです。彼女は一介の主婦であり社会福祉士でキャラ立ちするような役柄ではありませんが、優しいばかりではなく時には気丈であり、また相談者に辛い結果を伝えたり、鬱々した気分にさいなまれるなどという、強さと弱さをよく演じていて、さすがだと感じました。

また、この映画はジム・ローチ氏の初監督作品です。彼の父親は先日の“ルート・アイリッシュ”を監督したケン・ローチ氏です。おそらく彼は子供の頃から父親の映画作りを観てきたのでしょうけど、親の七光りというよりは、立派に独立した一人の映画作家と言っても恥ずかしくないと思います。

 

2012年08月25日 新潟・市民映画館シネ・ウインドにて鑑賞(09月07日まで上映)
おすすめ度:★★★★★4.5

原題:Oranges and Sunshine
監督:ジム・ローチ
脚本:ロナ・マンロ
原作:マーガレット・ハンフリーズ『からのゆりかご 大英帝国の迷い子たち』
出演:エミリー・ワトソン(マーガレット・ハンフリーズ)、デイヴィッド・ウェナム(レン)、ヒューゴ・ウィーヴィング(ジャック)
2010年 イギリス作品

 

 

【リンク】
“オレンジと太陽”公式サイト
オレンジと太陽@ぴあ映画生活
象のロケット

「オレンジと太陽」への3件のフィードバック

  1. ピンバック: 象のロケット
  2. 大人というのは子供には悪いことをしたら素直に謝れというくせに、自分がしたことについては、あれは教育だったとか仕方なかったとは自己正当化して謝らないんですね。
    私もそういう大人を知っています。

    子供って自分だけでは生きていけないから、すごく立場が弱いんですよね。
    だから大人が間違っていても、自分が我慢するしかない。

    そういう弱い立場の子供を搾取する大人は最低だと思いますし、見て見ぬふりをする大人も同罪だと思いますね。

    1. > 星鈴さん

      コメントありがとうございます。

      この映画はかつて移送された子ども達やマーガレットの視線で描かれていますが、見方を変えればおっしゃるように大人たちが子どもを利用し搾取してきたということが、公然と行われてきたということになります。しかも国家のレベルでです。

      国がそれを認めて謝罪するまでとても長い時間がかかりました。本当におっしゃるとおり大人は謝らないですね。

      立場の弱い子どもたちを虐待し搾取するというのは許せないですし、そんなことがない世界になってほしいですよね。

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