ロスト・グレイの静かな夜明け

【あらすじ】

15歳の少女アズサは買い物中に火事に巻き込まれて亡くなります。天寿をまっとうすることなく死んでしまった人の遺体は小舟に乗せられ、霧の向こうへと水葬されます。

その舟の向かう先は聖者の世界の果てと言われる霧の壁です。

多くの舟が途中で沈んだりしますが、アズサを乗せた舟は霧の壁を越えて、死者の世界へたどり着きます。

アズサが目を覚ますと目の前にはカーゴと名乗る少年が、この世界のことを教えてくれ、アズサを街へ連れていきそのまま別れます。アズサが連れてこられたのはマニージという武器商人が牛耳っているライオールという町です。

アズサは通りがかったエイムと子供たちに出会い、彼女たちが暮らす教会へ案内されます。そこでは年配のディアとエイムが子どもたちの世話をしながら暮らしていて、アズサも仲間に加わります。

この世界では自分のことは自分で何とかしなければいけないとカーゴに教えられたアズサは、なんとか一人で稼げるようにと、気まぐれにあちこち旅にでる料理人のサムシイの経営するレストラン“タイニーキッチン”で働くことになります。

ある日マニージの工場の敷地でバザーが開かれることになり、サムシイとアズサは店を出します。そして、そこで事件が起こるのです。

【感想】

どんな内容かも分からず、イラストが竹岡美穂先生というだけで買ってしまいました。しかも買ったお店ではメッセージペーパーもついてくるとなれば、こりゃ買わずに入られません(笑)

カラーイラストは表紙だけですが、透明感のあるイラストは素敵ですよね。コバルト文庫って概ねイラストが他のレーベルよりも少ない感じがするのがちょっと残念です。

読んでみたら意外と自分の好みでした。

冒頭の第三者的な視点で書かれた文章は、拙い感じがして大丈夫かな?と思いましたが、アズサが死者の世界にたどり着いてからはアズサ視点で書かれていてそちらはわかりやすく物語に入り込みやすい感じがしました。

とかく、異世界にやってきたキャラクターは特殊な存在であったり、特殊な能力を持っていたりというのが多異様にも思いますが、この世界でのアズサは本当に普通の少女です。ですが、時折相手の気持ちについて核心を突くようなことを口にしたりもするようです。

この世界は心残りを持った亡くなった死者がたどり着く世界ですが、すべての人が善人ということでもなく、生前の願いが叶うとか、魂が救われるというような何か特別なこともなく、現実の世界の延長でしかないようにも感じます。そこで人々は悩みや苦しみを抱えて生きています。

カーゴは父親の懐中時計を奪ったマニージからそれを取り戻すことで、自分の存在を確かめようとします。

また、カーゴの幼馴染であり、マニージの有力な部下でもあるスタイフは、父親が紛争に巻き込まれて亡くなり、それで気を病んだ母親を拳銃自殺で亡くしたにも関わらず、嫌いな拳銃を作る武器工場で働き、戦争に加担しているというのは息苦しさを感じているのでしょう。

カーゴが懐中時計を取り戻したからといっても、結局彼は何も変わることが出来なかったようです。しかし、マニージの工場で起きた事件をめぐって対立し、関係が壊れてしまいそうなカーゴとスタイフをつなぎとめたのはアズサでした。でも彼女はなにか特別なことをしたわけではなく、そのことをサムシイから聞かされただけです。

アズサには心残りがあるはずですが、まだ彼女にはそれが何なのかはわからないようです。おそらくこれからアズサはカーゴと世界を旅して回るのではないかと思うのですが、そこで出会う人々やできごとから少しずつ気づいていくのかもしれないですね。

また、アズサの生前の記憶とこの世界でのアズサの考えることがどう結びついていくのかも興味深いです。

生前の世界とこの世界を隔たる霧の壁については神ですら分からないということです。現実の世界と死者の世界の違いや霧の壁の存在についても今後少しずつ明らかになっていくと思います。

また、教会でエイムとともに子どもたちの世話をするディアは高齢のため体が弱ってきています。この世界で死んだ人は次にどこに行くのかというのも気になるところです。

 

2012年08月07日読了
★★★★☆3.5
この巻も悪くなかったですが、続刊が予定されているということで、今後に期待です。

 

ロスト・グレイの静かな夜明け
野村 行央 (著), 竹岡 美穂 (イラスト)
集英社 コバルト文庫
2012年08月01日発売

 

「ロスト・グレイの静かな夜明け」への2件のフィードバック

  1. はじめまして。私も竹岡先生の絵が大好きで購入しました!でも、特典のことは知らなかったです(泣)
    淡々とした物語でコバルトでは珍しいと思いました。私は昔やっていたアニメの「灰羽連盟」を思い出して懐かしくなりました(グレイと灰羽で何となく色が同じせいかも?)心残りを残した死者が流れ着いた世界、そして壁の存在が灰羽っぽかったです。バイクで旅をしているサムシイは灰羽のレキみたいで好きです。レキもスクーターとあと絵が趣味でした。
    少し脱線しましたが、淡々とした物語は大好きなので私も続刊が気になっています。挿絵も章の扉絵だけでしたが、とてもきれいだと思いました。

    1. > 瑞穂さん

      こちらこそはじめまして。コメントありがとうございます。

      特典はアニメイトで購入した時についていました。自分もお店で見るまでは特典がついていたのは知らなかったです。

      竹岡先生のイラストは「黄昏色の詠使い」シリーズを読んで、美しい文章にとてもかわいらしくピッタリなイラストでたちまちファンになりました。

      コバルトはマリア様がみてるしか読んだことがないのですが、他のレーベルでもこういう淡々としていて、繊細な心の動きを捉えた作品が好きです。

      ロスト・グレイのイラストも数は少ないですが、とてもクリアで優しげな感じが素敵ですよね。

      今月末には”末摘花” ヒカルが地球にいたころ……(5)”が発売され、こちらの方は特装版には、ドラマCDだけじゃなくて、ポストカード画集などもついてくるのでとても楽しみにしています。

      今後ともよろしくお願いいたします。

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