さりげない人情味がおこす奇跡 映画“ル・アーヴルの靴みがき”

 “素朴だけど裏通りで幸せに暮らす人々のちょっとした好意のおすそわけが奇跡へとつながる人情味は見ていて気持ちがいいです”

北フランスの港町ル・アーヴル。

初老のマルセル・マルクスはこの街で靴磨きを生業にしています。

仕事が終わり家に帰ると、出来過ぎた妻のアルレッティや愛犬が彼を迎えてくれます。

ある日アフリカから不法難民が乗ったコンテナが港に陸揚げされます。このコンテナはロンドンへ運ばれる予定だったのが、ル・アーヴルに間違って降ろされたということです。警察がコンテナの捜査に入ろうとしたところを一人の少年が逃亡し、警察はその少年を追跡することになります。

マルセルは船着場の階段に昼食を食べようと腰掛けたところ、逃亡した少年イドリッサと出会います。

同じ頃アルレッティは体調を崩して入院することになり、不治の病と診察されます。

妻が入院している中マルセルは何かとイドリッサを気にかけ、イドリッサをロンドンに居る母親のもとへ行けるようにと奔走します。

 

冒頭の船から降りて港を行き交う人々の足元をため息混じりでじっと見つめるマルセルの表情が印象的です。みんなスニーカーなどを履いていて、靴磨きが必要な靴を履く人が少なくなっているところに、マルセルの老いやこの仕事はそんなに儲からないよというようなことがうまく描かれています。行き交う人々の足元のアップやそれを見つめるどことなく表情の険しいマルセルのアップなどこのシーンの映像は実に巧みにつくられていると思います。予告にも登場する靴を磨いてもらっていた紳士がお金を渡して立ち去った直後に撃たれますが、お金をもらったから自分はもう関係ないと割り切るところは、どことおなく靴磨きという仕事はお客とは深く関わらないというドライさもうまく描いていますね。

真面目に仕事をしているけど稼ぎの少ないマルセルに悪態をつくこともなく、彼の稼ぎのいくらかを渡して「夕飯の支度ができるまでカフェで呑んできたら」とすすめたり、マルセルが寝静まってからも彼のズボンにアイロンをかけたり、と気立てもよく献身的です。特に夜中に靴磨きのマルセルの靴を磨くシーンは素朴だけれども彼への愛情の強さが現れているように感じます。

マルセルは近所のパン屋や八百屋へのツケが溜まっていて、店の主人はマルセルに何か売ることを時には渋るのですが、アルレッティが入院したと知ると何かと心配してくれる。八百屋のオヤジが「間違って足の早いものをたくさん仕入れてしまったから、もらってくれ」と言って、、店の品物を気前よくマルセルに持って帰らせるところなんかは粋ですよね。

イドリッサの逃亡を操作する警視も、不法難民を取り締まるのが仕事とはいえ、今日は非番だからとイドリッサをかくまうマルセルに助言をするところや、かつて自分が逮捕した男が亡くなってその妻のことを気にかけたり、訳がわからずこの街にやってきた子どもの希望を守ろうとするところは、一見堅物なのですが人間味にあふれてます。

マルセルの周りの人々の人情味あふれるところも素晴らしいですが、最愛の妻が入院し心配なのにかかわらず、自分にできることはちっぽけなことかもしれないけれども、あれだけイドリッサのために奔走する無償の善意には心打たれます。

イドリッサは聡明ですが、港で海を見つめる彼の表情は晴れることがありません。わけも分からずこの街にたどり着いてしまい、警察から逃げられたもののどうやって生きていけばいいのか、どうすれば母親と会えるのかなど不安いっぱいなのでしょうね。だからといって卑屈になったり自棄的になったりしないのは、マルセルたちの存在に支えられているからなのでしょうね。

「みんなで力を合わせて誰々のために◯◯しよう」と気張ることもないし、対価を期待しているわけではありません。みんながそんな風にできるのはマルセル自身が無欲で献身的だったからなのでしょうね。

終盤になるとマルセルとイドリッサは警察に追い詰められていきます。そんな中マルセルとイドリッサを逃がそうと、周りの人々は彼らにさりげなく力を貸します。さりげない隣人への善意が連鎖していき、ラストに奇跡を呼び起こすところは見ていて気持ちいいです。

イドリッサを無事に送り出し、マルセルは入院している妻を訪ねますが、その時にベッドはもぬけの殻で、彼がいどりっさに届けさせた黄色い服の包みがポツンと置いてある演出も心憎いです。

マルセルたちはイドリッサをイギリスへ送り出す資金を集めるために慈善コンサートを開催するのですが、ロックスターのリトル・ボブが妻とよりを戻して再びマイクを取るのはいいのですが、演奏シーンが異様に長くどことなく違和感があり不可解でした。

大げさな舞台ではないですが、港の片隅の風景、裏通りの街並み、マルセルとアルレッティの家やちょっとした小道具などはとてもリアルに生活感が現れていますね。

 

2012年07月28日 新潟・市民映画館シネ・ウインドにて鑑賞(08月10日まで上映)

おすすめ度:★★★★★4.5
劇中に流れるどことなく古い感じのポップスも港町の雰囲気によく合っていますね。

 

原題:Le Havre
監督・脚本:アキ・カウリスマキ
出演:アンドレ・ウィルムス、カティ・オウティネン、ジャン=ピエール・ダルッサンほか
2011年 フィンランド・フランス・ドイツ作品

 

 

【リンク】
“ル・アーヴルの靴みがき”公式サイト
ル・アーヴルの靴みがき@ぴあ映画生活

 

「さりげない人情味がおこす奇跡 映画“ル・アーヴルの靴みがき”」への20件のフィードバック

  1. ピンバック: 佐藤秀の徒然幻視録
  2. ピンバック: 真紅のthinkingdays
  3. 映画はありふれた町の風景にさりげない人情が垣間見える作品のようですね。
    ヨーロッパの映画って、こういう映画が多いのですか?

    1. > 星鈴さん 

      コメントありがとうございます。

      偏見が入った言い方になるかもしれまんが、アメリカの映画と違って、普通の人がメインの登場人物で、どことなくとりとめのないストーリーで、終わり方も曖昧だったり唐突だったりというのが結構あるように思います。

      この映画はおっしゃるとおりの映画だと思います。ストーリーや人物描写は分かりやすい方ではないかと思います。

  4. ピンバック: to Heart
  5. ピンバック: 徒然草
  6. ピンバック: キノ2
  7. ピンバック: LOVE Cinemas 調布
  8. ピンバック: カノンな日々
  9. ピンバック: 銅版画制作の日々
  10. ピンバック: kintyre's Diary 新館

コメントを残す