感情を解き放ち成長する子どもたち 映画“ピナ・バウシュ 夢の教室”

10代には10代なりの人生がある。それを真剣に舞台へぶつける子どもたちの姿が眩しいくらいに生き生きしています。

世界的な舞踊家ピナ・バウシュの代表作「コンタクトホーフ(=Kontakthof)」を上演するために、ダンスや舞台の経験のない子どもたちが集まります。

10ヶ月後には本番の舞台に立たなければいけないという中で、少年少女は悩み、戸惑いながらレッスンを重ね、初演を迎えるというドキュメンタリーです。

Kontakuthofは適当な日本語訳はないようです。あえていうなら「心と体が触れ合う場」とでもいのうでしょうね。

舞台は学校の教室のようにも見えるし、体育館や公共のホールのようにも見えます。

そこにビシっとスーツでキメた男たち、セクシーなドレスで着飾った女たちが集まり、男と女の接触が繰り広げられるというものです。

女性は男性を扇情的に誘惑し、男性は女性を情熱的に誘惑する。だけどもときには憎しみや悲しみをあらわにしたり、すれ違いもあったり、気持ちのキャッチボールを体や顔で表現する群像劇というようなものかと思います。

この春に公開されたヴィム・ヴェンダースの『ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』でも、ヴッパタール舞踊団によるステージが収録されています。

この演目はピナが監督するヴッパタール舞踊団だけではなく、65歳以上の男女やこの映画にあるようなティーンによって演じられたりもしているとのことです。

またピナを信奉するダンサー達がもっとも出演したいピナの作品だとも言われています。下の動画はピナが監督していたヴッパタール舞踏団によるものです。

【映画を観て】

集まった少年少女はダンスの経験はないとはいえ、それぞれ趣味も違えば家庭環境も違います。また、演劇が観るのが好きだからとか、自信を持ちたいとか、(異性との)出会いを期待するなど集まった動機も様々ですし、自分はダンスなんて向いていないと思っている子もいます。(彼らがどういうプロセスで集まったのかはこの映画からはわかりません)

この年代の子どもたちは、他人と接するということに抵抗があり、思った以上に緊張してしまうというのは、どこの国でも共通なのだなと思います。

大人であるピナ、ジョー、ベネディクトとの接触はもとより、同じ舞台に立とうとする同年代の同性とすらも最初は気後れしていたというようです。

コンタクトホーフはいかに愛を表現するかというのもひとつのテーマだと思いますが、ティーンにとって異性と付き合った経験はあっても、愛というものがよくわからないでいます。

この舞台では異性に触れるというシーンや下着姿になるというシーンもあり、それでも舞台なのだからと妥協することなく大胆に要求する大人たちも凄いなと思いますよ。また、そんなところに恥じらいを見せるところはその年代の子どもたちらしいです。

舞台ですから振り付けや演出はありますが、彼らに求められているのはズバ抜けた技術というものではありません。そういうことよりもこの舞台の本質である「真剣な感情を伝える」ということを、ピナをはじめ、ベネディクトやジョーは少年少女に求めます。

もっと真剣に感情を表してという要求に「わからない、できない」とすぐに拒否するところは今時の子どもらしいと思います。それに対してレッスンの指導をする大人たちはだったらどうやったらできるのか一緒に考えてみようと、そんな彼らを受け止めるところには懐の深さを感じます。

彼らはそれぞれに感情を解き放つことや、自分の演じる役の人物像、不可解な場面設定や振り付けなど様々に悩みます。

しかし、それに対する正解はなく、彼らは10代とはいえ自分自身の人生をぶつけて自分なりの答えを出していったようです。そんな彼らの悩み戸惑う姿に共感し、どんどん感情移入してしまいます。

彼らのレッスンを担当するベテランのダンサーであるベネディクトやジョーは誰々が泣いているとか、誰々が付き合っていた子と別れたなどと結構細かいそれぞれの事情をよく把握はして、ケアしていますが、だからといってそういう個々の事情に舞台づくりを迎合させるようなことはしないのです。

舞台に対しては「子どもだから◯◯でいいや」とか「未経験だから◯◯でいいや」と妥協せず、「舞台に立とうとする人」として本気で接しているから子どもたちとも打ち解けることができたのではないかと思います。

レッスンを重ねることで指導者や仲間たちと打ち解けられるようになり、感情を解き放つことができるようになった子どもたちも、稽古の面倒を見る大人たちも、共に心の底から楽しんでいるというのが、本当によく伝わってきます。

プロのダンサーと比べれば技術的に未熟なところはあっても、精一杯自分の人生をぶつけ、感情を解き放った彼らのステージは素晴らしいものでした。上演後ステージに並ぶ彼らの感動や達成感に満ち溢れた表情は観ている方もとても爽快な気分にさせてくれます。

ちょうどいじめや学校の問題が毎日報じられる昨今、少年少女の頑張りに愛情たっぷりの眼差しを注ぐピナ、稽古をつけるベテランダンサーと子ども達との触れ合いを見て、教育はこうであるべきというようなことを考えてしまいます。

でも、そんな理屈をこねるよりも、ストレートに子どもたちの目がくらむほど眩しい目の輝きや生き生きとした表情、舞台への挑戦を通じて自分の人生と真剣に向き合う姿に共感してほしいと思います。

 

2012年07月21日 新潟・市民映画館シネ・ウインドにて鑑賞(08月03日まで上映)
おすすめ度:★★★★★
ピナの所作の美しさにも注目です。

原題:TANZTRÄUME – Jugendliche tanzen Kontakthof von Pina Bausch
監督: アン・リンセル、ライナー・ホフマン
出演: ピナ・バウシュ 、ベネディクト・ビリエ 、ジョセフィン=アン・エンディコットほか
2010年ドイツ作品

【リンク】
“ピナ・バウシュ 夢の教室”公式サイト
ピナ・バウシュ 夢の教室@ぴあ映画生活

 

【おまけ】
ヴィム・ヴェンダースの『ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』のレビューはこちらです。

「感情を解き放ち成長する子どもたち 映画“ピナ・バウシュ 夢の教室”」への6件のフィードバック

  1. 10代の多感な少年少女を描いた作品なのですね…。
    確かに10代の頃というのは、他の年代では得られない思いというモノを持っている気がしますよね。
    このころの年代って、思いがたくさんあり過ぎて、それを上手く表現できないもどかしさというモノもあるような気がしますが、それを大人たちが温かく見守り、ダンスとして結晶させる心温まる作品なのですね!!

    1. > 星鈴さん 

      コメントありがとうございます。

      自分の場合、その年頃っていろんな思いは持っているけど、どれもこれも中途半端で、またそれをはっきりと外へ出すというのに抵抗感があったように思います。

      そんな悶々としていながらも10代ってすごくいい時期だったなと思いますし、もしこれまでの人生で戻れるとしたら迷わずこの頃を選ぶと思います。

      この映画で彼らが上演するコンタクトホーフは、プロのダンサーによって上演されたり、65歳のお年寄りによって上演されたりしています。ネットで公開されている断片的な動画を観ただけですが、それぞれの人生というバックボーンがあって、表現がなされているのだなと感じました。

  2. ピンバック: LOVE Cinemas 調布
  3. ピンバック: Nice One!! @goo

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