本音むき出しの猥雑な生き方が強烈 映画”苦役列車”

平穏な暮らしのレールに乗れなかった中卒の日雇い人足の青年が、本心丸出しで生きる姿は強烈であり、とてもそんな風にはなれないよなって思います。そんな青年を演じた森山未來の役作りはお見事です。

僕は北町貫太、昭和42年生まれの19歳。

東京で日雇い人足の仕事をしたり、しなかったりしながら、3畳家賃1万のアパートで暮らしている。

親父は僕が小5のときに、性犯罪で捕まり、学校にはいけなくなり、一家離散の状態だ。

前に彼女がいて練習台だと思ってあれこれやったけど別れちゃって、性欲処理はもっぱら風俗通い。

そんな毎日の中で楽しみは本を読むこと。自慢じゃないが結構読んでいると思う。いつか自分も本がかけたらいいなとなんとなく思ってもいる。

バイトで入った金もついつい風俗や酒に使ってしまい、家賃を滞納しちゃうんだよね。またこのアパートも大家のババアから追い出されそうだ。ま、追い出されたら次のアパート探せばいいんだけどね。

ある日、仕事に向かうバスの中で、自分と同じくらいの歳のヤツを見かけて声をかけてみた。

そいつは九州から上京して専門学校に通う正二という。仕事場にはオッサンばっかで歳の近いヤツがいない。なんとなく昼休みにクソ不味い弁当を一緒に喰ったりしているうち慣れ合い、友達ができたように思う。

友達もいいけど、彼女だって欲しい。前から行きつけの古本屋でバイトをしている康子ちゃんがメチャメチャ可愛くて柔らかそうで、なんとか付き合えないかとか思っているけど、どうきっかけを作っていいのかわからない。

正二に口添えしてもらって、康子ちゃんと友達になることができたんだけど、長い間友達のいなかった僕はどうしていいのかわからないことばかりだ。

 

貫太のどうしようもなさというか、サイテーっぷりというか、ダメっぷりな生き様を描いたロードムービーといえるでしょう。

貫太役の森山未來のそこまでやるかという役作りがすごいですよ。

貫太の素行は品が無いというよりは、自分の本心をむき出しに生きていると言う方があっていると思います。

彼は、誰かに好感をもってもらえるように自分を装ったり、虚勢を張ったりするということはなく、自分に嘘をついて生きているのではないんだと思います。(唯一嘘をつくのは家賃の支払を待ってもらえるように、あれこれ理由を並べて頭を下げるところです)

父親の事件をきっかけに世間から孤立してしまった貫太は、どうやって人と付き合えばいいのかがわからないまま、生きてきたというのもあるかもしれません。

だから康子(=前田敦子)とどう接していいかわからず、正二(=高良健吾)が間に入ってくれないとうまくいかないのかもしれません。

貫太の人付き合いのうまくいかない原因の一つに、彼の話があるようにも感じます。特に正二とその彼女と3人で飲んでいるとき、「田舎者は世田谷とか杉並に住みたがる・・・・・」とくだをまきますが言い方はかなり卑屈な感じもしますが、本だけは読んでいるだけあって言っていることはかなり知的な感じがしてしまいます。

そんな貫太と対照的なのは正二です。専門学校に通い仕事もそつなくこなし、コンパに行ったり、彼女が出来たりと絵に描いたような、バブル直前の若者のテンプレートといえるような青春を謳歌している感じがあります(映画の中ではバイトばかりでいつ学校に行ってるのか謎ですけど)。

貫太くらいの歳になるまでは、多くの人が自分の夢の実現を目指したり、いい暮らしや安定した暮らしを手に入れようと生きているのではないかと思うのです。しかし、現実には誰もがうまくいくわけでもないし、自分ではどうにもならないことで挫折してしまうこともあるでしょう。とかく日本の社会は終身雇用のレールから外れてしまうと、起業して成功でもしない限り、どんどん底辺に近づいていくように感じています。

貫太はそんなレールには最初から乗っていなかったように思うのです。彼の乗っているレールはどこまでも社会の底辺を走り続けるように感じます。

終身雇用を約束されていてもいつどうなるか分からないし、一見平穏に見える家庭もいつ壊れるかわからない今の世の中、誰もが貫太のような生活に追い込まれてしまう可能性は否定出来ないと思います。でも、今から貫太のような生き方ができるかと問われたら、とても受け入れられそうにありませんよ。

現実社会の底辺で、自分一人で生きてきた貫太は、飲み屋でテレビのチャンネル争いをきっかけに喧嘩になり、結局ボコボコにされパンツ一丁でどっかに放り出されます。

その格好のまま、かつて正二や康子と3人で行った海岸へ行き、波打ち際にうかぶ彼らの幻影に向かって走りだした後の結末はどことなくシュールな感じにはちょっとホッとしました。

第144回芥川賞を受賞した西村賢太の同名小説が原作ということですが、読んでいないのでこれについてはなんとも言いようがありません。

また、バブル期直前の猥雑な街の様子もよく表現されています。

 

2012年07月16日 T・ジョイ新潟万代にて鑑賞
おすすめ度:★★★★☆
白いブリーフが眩しいじぇw

 

監督: 山下敦弘
原作:西村賢太「苦役列車」
脚本:いまおかしんじ
音楽:SHINCO(スチャダラパー)
出演:森山未來、高良健吾、前田敦子
2012年 日本作品
R-15+指定

リンク
“苦役列車”公式サイト
苦役列車@ぴあ映画生活
象のロケット

「本音むき出しの猥雑な生き方が強烈 映画”苦役列車”」への19件のフィードバック

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  5. 私も御承知のとおり、大学を出て金融に勤めましたけど、そこを辞めて務めたプログラマーの会社は手取り14万ちょっとの安月給で、2日連続徹夜とかの最低な会社でした。
    給料安いだけならともかく、同人を描く暇もない生活にバカバカしさを感じて、フリーターをしながら同人を描いていました。
    そのときにした仕事は、日雇いの引越しなどの力仕事、鳶、派遣の工場などでした。
    まあ、最初の就職までは良かったですが、そこから先は人生って一度レールを外れるとこんなモノかと思いました。
    だから、貫太の気持ちはわからなくもないですよね…。

    まあ、それでも私は人の人生って何らかの意味があるからこそ、それぞれの経験をするのだと思うんですよね。
    上手くいえませんが、その経験を活かして、その後の人生を歩んで行くのがいいのではないかと思いますよ。
    やり切れない人生だったとしても、それを乗り越えて私は歩んで行きたいと思っているんですよね。

    1. > 星鈴さん 

      コメントありがとうございます。

      本当に一度終身雇用のレールから外れてしまうと、本当にあのころはまだ良かったなと思うことのほうが多いと感じることも確かにありますね。

      この原作は西村賢太さんが自分のことを基にしていると聞きました。映画でもラストで突然何かを書き始めるのですが、そこには彼の経験したことが書かれているのでしょうね。

      人生の経験に無駄はないといいますけど、仕事や家族を失っても貫太のようには生きられないようにも思います。

      この映画を観て、なかなか前向きな気持というのは湧いて来ませんが、辛いことなどあっても自分に嘘をつかないでいれば、乗り越えていけるのかなとも思います。

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