骨太なラップと濃密なエネルギー 映画“SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者”

サイタマから上京したラッパーのどん詰まりの運命に抵抗する様子と、かつての盟友が高みを目指す姿が対照的に描かれるエネルギッシュな映画です。

【ストーリー】

サイタマ県フクヤ市で活動するヒップホップユニット“SHO-GUNG”のマイティ、イック、トムの青春ロードムービーの3作目。

マイティはトウキョウに行ってメジャーになるとメンバーに別れを告げます。

それから2年が経ちますが、マイティの思うようには成功せず、建設現場でアルバイトをしながら、“極悪鳥”のパシリをしながらチャンスを狙っていました。

フリースタイルバトルで決勝に出たらステージに上げてやると言われたマイティは見事決勝進出を果たしますが、そこで極悪鳥のメンバーから八百長を強制されます。

そのことでブチ切れたマイティは極悪鳥のメンバーに暴力を振るい、同棲している一美と逃亡しトチギへ流れ着きます。

トチギでマイティはきな臭い仕事をして食いつなぐことになります。

あるとき仕事先のボスが北関東一の規模のイベントをやると言い出しマイティはイベントの開催に巻き込まれます。

一方で“SHO-GUNG”の残されたメンバーのイックとトムはこのイベントのオーディションにトチギへとやってきます。

 

【映画を観て】

1980年代の後半にヒップホップミュージックが注目されるようになり、先駆けとなったいとうせいこう氏(この映画にもチラリと出演)や近田春夫氏、それに続くスチャダラパーはとても好きでした。

しかし、ここ数年ヒップホップミュージックはギャングスターのイメージが強くなったり、TV等で露出度の高いグループはキャッチーな路線に走りすぎたり、無意味に観客をあおるばかりで、ヒップホップミュージックは終わったという感を抱いていたので、このシリーズは食わず嫌いでした。

実のところ、今日は別の映画を観て帰ろうとしたところ、シネ・ウインドの井上支配人が万代シテイで街宣していて、一本釣りで声をかけられたことや、公開初日で入江悠監督や出演者の方の舞台挨拶があるということで急遽観に行ってきました。

ビートをほとんど無視したフリースタイルやキャッチーな路線に流行が切り替わってきているとはいえ、久しぶりに骨太なラップを聴いたように思います。特にフリースタイルバトルでのマイティのラップはリズムに言葉をキッチリ乗せていて、まさに自分好みのラップでした。

感情に走り運命を翻弄されるマイティと、より高いステージへ上がろうとするイックとトムはともにエネルギッシュに描かれています。

ストーリーは暴力沙汰を起こし、ラップから遠ざかり袋小路に追い込まれていくマイティと、今までにない大きなステージだと張り切るイックとトムの様子がとても対照的に描かれています。

しかし、マイティも好きで暴力に走っているわけではなく、極楽鳥のメンバーにステージへ上げてもらう約束を反故にされたこと、愛する一美が体を売らされたこと、こうしたことへの憤りで自分を見失ってしまったのでしょう。

それと同時に自分の夢にどんどん遠ざかっていく自分自身への怒りや焦りが、そうした行動を増長させているのだろうと思います。

単に理不尽な物事への怒りだけではなく、どこかで夢を諦めきれない、どんどん夢から遠ざかる自分が許せないという幾つもの気持ちが重なり、彼の姿はエネルギッシュに見えてくるのだと思いました。

彼の仕事の関係で、盗難車や社会からの脱落者を海外に売ろうとする産廃処理業者の様子は、袋小路にはまってしまったマイティの人生を投影しているかのようでした。

また、この映画の見所でもあるイベントでマイティが逃亡資金を得るために入場料を強奪し、ボスやイベントのゲストの極悪鳥に抵抗し逃げようとする様子は、彼自身が失望のどん底から逃れようと激しくもがいているように思いました。

サイタマから遠征に来たイックとトムは、高い出演料を求められながらも、チャンスは逃してはいけないと地元のグループと意気投合し、タッグを組んでトチギのイベントのステージに上ります。マイティの逃亡劇はこのステージの目の前で繰り広げられるのですが、上り調子の彼らと転がり落ちていくマイティの姿はとても対照的でマイティの失望とそれに対する抵抗がより鮮明に描かれているように思います。

ラストに拘置所で3人はようやく再会を果たしますが、マイティはお前らなんか知らないと激しく突き放します。しかし、イックとトムのラップは辛いことがあっても夢に向かって進めとマイティの魂を突き動かすところは友情以上の何かを感じさせられ感動です。

映画を観た後で知ったのですが、入江悠監督は“劇場版・神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ”も手がけていたのですね。これは昨年自分が観た日本映画の中で上位にランキングしたものです。バラバラなエピソードがラストに向かって集中するエネルギーの高まりが素晴らしかったですね。

サイタマノラッパーも転落する運命への抵抗や、より高みを目指そうとするエネルギーが濃密につまった映画でした。

 

舞台挨拶では、入江有監督やマイティ役の奥野瑛太さん、イック役の駒木根隆介さん、極楽鳥のメンバー役の配島徹也さん、ラインプロデューサーの佐藤圭一朗さん、助監督の丸谷ちひろさんらのトークが1時間弱にわたって行われました。

マイティ役の奥野さんは4日前から新潟入りしてPRをされていたとのことですし、ラインプロデューサーの佐藤さんは新潟県出身ということで、この映画を持って新潟に凱旋できたことを喜んでられました。

制作の苦労話や商業映画とインディーズ映画の制作手法の違いなども面白かったですが、特にボランティアスタッフやエキストラの方々が制作段階だけではなく、完成後のPRにも積極的に関わってられるエピソードはこの映画の求心力の強さを裏付けているように感じました。

 

2012年06月23日 新潟・市民映画館シネ・ウインドにて鑑賞(07月06日まで上映)
おすすめ度:★★★★★4.5
プリプリしてそうででっかいギョウーザが美味そうでした。

監督・脚本:入江悠
出演:奥野瑛太(マイティ) 駒木根隆介(イック) 水澤紳吾(トム) 斉藤めぐみ(相沢一美) 北村昭博(MC林道) 永澤俊矢(等々力辰彦) ガンビーノ小林(山下紀夫) 美保純(高島紀代美)
2012年 日本作品

【リンク】
“SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者”公式サイト
SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者@ぴあ映画生活

「骨太なラップと濃密なエネルギー 映画“SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者”」への2件のフィードバック

  1. 夢って叶えられた人の話ばかり聞きますけど、大半は夢叶わずに脱落して行くんですよね。
    私は同人をやってたので、4人ほど某アニメーション学院に行った友人がいましたが、1人はいつまでたってもアシスタント、残りは別の職業になっています。
    これが現実かな、と思いますね。

    実際、どこかで線引きをして、新しい人生を歩む必要があると思うのです。
    しかし、私はこのマイティは夢をあきらめきれず、それができないもどかしさもあるのではないかという印象を受けましたね。
    まあ、人生って本当に難しいですよね…。

    1. > 星鈴さん 

      コメントありがとうございます。

      マイティもあれだけの力量がありながらもいつまでもパシリで、こんなはずじゃなかったと焦りや苛立ちが鬱積し、暴力沙汰で追われる身となったといえます。彼がもう少し自分をコントロールし、極楽鳥のパシリから抜け出せればもっと自分の夢に近い人生となったと思います。

      舞台挨拶でのトークでは、監督の入江さんもラインプロデューサーの佐藤さんも、映画の世界に入ってから下働きの時期が続き、なんでこんなことをやっているのかとか、いつになったら上のステージに行けるのかと時折悩んでいたそうです。

      そうした映画の世界に夢を抱いて上京したことや、出口が見えず悶々としたものが鬱積していった体験が映画のベースになっていると入江監督は話されていました。

      そうした時期に挫折するのか、そこを乗り切るかで人生が大きく変わると思います。でもおっしゃるように撤退の決断は前に進もうとするよりも厳しいと思います。現実の世界で生きていくには、弱いと言われてもどこかで見切りをつける決断も必要だと思います。

      夢と現実のギャップでもがくエネルギーがあふれだす映画でした。

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