刺激を求めるほど深くなる心の闇 映画“SHAME -シェイム-”

性的刺激に依存する兄と、他人からの愛に依存する妹。それぞれが孤独や虚無感など深淵な心の闇にはまりこんでいく様子は他人ごとではないかもしれない。

【ものがたり】

ニューヨークに暮らし、結構仕事もできる独身男のブランドン。一緒に飲みに行った上司に誘われナンパをすれば、なぜか彼の方がモテるという程のイケメンです。

そつなく暮らしているように見えますが、彼は常に性的刺激を求め続けています。

とにかくする。誰とでもする。お金を払ってでもする。一人でもする。複数とでもする。仕事場でもする。道端でもする。仕事を抜けだしてでもする。男ともする・・・・・・・・・・

していないときはポルノ動画や、アダルトチャットに入り浸りです。

そんな彼のもとに妹のシシーがやってきます。

シシーは他人に愛されることに飢え、それがうまくいかなくなると自傷を繰り返してきました。

妹がやってきたことで思うように過ごせないブランドンは苛立ちをつのらせ、二人はぶつかりすれ違います。

 

【映画を観て】

ブランドンはどんなにセックスをしても、アダルト動画を見ても、快楽を享受しているような様子が何一つないように感じます。

ブランドンのセックスには恋愛感情は全く関係していないかのようです。商売女や行きずりの女とはセックスできても、少しでも心が通った相手としようとしても違和感を抱いて、できなくなってしまうシーンがそんなことを物語ります。

妹のシシーがブランドンに助けて欲しいと電話をかけてきても、彼は電話を取らずアダルト動画を見ることを優先してしまいます。

上司と飲みに行って店で上司に誘われナンパをするときでも、彼は積極的に声をかけようともせず、むしろ上司の方が楽しんでいるかのように見えます。

挙句の果てに仕事場のパソコンはアダルトサイトからウイルスに感染し、多数のアダルト動画が保存されていたことが上司にバレ“お前は病的だ”と言われるほどです。

どれほど性的刺激を求めても彼の心は満たされることがなく、ついには自分を見失い、人間関係から孤立し、誰かを傷つけているかのようです。その孤独感や罪悪感を埋めるかのようにさらに性的刺激を求めるというループにハマり、彼の心はどんどん心の暗闇の底に向かって落ちていくかのように思います。

何をしても楽しさや快楽を感じることのないブランドンの感情はまるで死んでいるかのように見えるのです。

妹のシシーは他人との愛を失うことに怯え恋人との別れの電話で泣き叫びます。シシーは兄のブランドンに心の安らぎを求めようとしますが、ブランドンは自分の生活が彼女に乱されることに苛立ち、厳しく突き放します。

シシーは恋人に振られ、その心の穴を埋めようと、兄を頼ろうとしていたのだと思います。自分の存在を受け入れて欲しい、自分の気持をわかってほしいと彼女は思っているのでしょうね。

しかし、シシーが兄の上司と寝てしまったことで、ブランドンはそれを切り口に彼女を激しく責めます。

妹と衝突しムシャクシャしたブランドンは家を飛び出し、セックスに明け暮れます。一方シシーは絶望し自傷してしまうのです。
ブランドンが駆けつけシシーは一命を取り留めます。唯一の家族を失わずにすんだブランドンは、心の虚無感を埋められる存在は家族なのだと気づいたのかもしれません。

セックスや愛情だけに限らず、誰もが何かしらの物事に依存していると思います。ブランドンとシシーは分かっていてもせずにはいられない、断ち切ることができない心の状態を代弁しているように思うのです。

自分も過去にとある物事(セックスや愛情ではないですが)にどっぷり嵌り込んだ時期がありました。

一番酷い時は仕事のことや家族のこと、自分自身が何をするべきかなどのことを含めて、そのこと以外は一切考えられなくなりました。

寝ても覚めてもその事ばかり考えて、行動もそのことが中心になってしまっていたかのようでした。それをしてしまった罪悪感や後悔で自分を責めてしまい、またその気持を紛らわすために、さらに同じ事に走るという繰り返しでした。結果多くの人に迷惑をかけたり、家族を傷つけたりもしました。

でもそんな状況になってしまった自分を受け入れて助けてくれたのはやはり家族でした。そんな経験からブランドンの様子はその頃の自分がとても重なって見えてしまいます。

ブランドン役のマイケル・ファスベンダーは過激なセックスシーンもさることながら、孤独や苛立ち、いつまでも満たされない虚無感など”淀んだ水が濁っていく”かのような心の状態をうまく表していたと思います。

妹のシシー役のキャリー・マリガンはブランドンとは対照的に感情を露骨に表し、自分の弱さを責めてしまう役柄をよく演じていました。ちょっと前に観た映画”ドライヴ”での感情を抑えた人妻とは対照的に感情をどんどん出してくる役でしたね。

また、映像はどことなくくすんでいるというか青っぽいトーンで、深い闇に落ちていき、生き生きとした状態ではない二人の心の様子を引き立たていると思います。

劇中ではグレン・グールドが演奏するバッハのゴールドベルク変奏曲や平均律クラヴィーア曲集のプレリュード(BWV885)とフーガ(BWV855)が使われています。予告の冒頭にも使われているフーガ(BWV855)は、ブランドンの孤独な様子を感じに盛り上げていました。

 

2012年06月17日 T・ジョイ新潟万代にて鑑賞
おすすめ度:★★★★☆
グレン・グールドの演奏が大音量で流れるとやっぱり歌声が聴こえますね。

原題:SHAME
監督:スティーブ・マックイーン
脚本:スティーブ・マックイーン、アビ・モーガン
音楽:ハリー・エスコット
出演:マイケル・ファスベンダー、キャリー・マリガン、ジェームズ・バッジ・デール、ニコール・バハーリー
2011年 イギリス作品
R-18+指定

 

リンク
“SHAME-シェイム-”公式サイト
SHAME-シェイム-@ぴあ映画生活
象のロケット

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