女子高生の心の成長がみずみずしい ライトノベル“桜色の春をこえて”

高校入学と同時にスタートする一人暮らしに希望をふくらませる主人公の杏花。思わぬトラブルに巻き込まれ、隣に住む同じ高校に通う有住の部屋に居候することになります。
主人公の細かな気持ちの変化と、二人が心に抱えている壁を乗り越えながら友情を深めていく様子がとてもみずみずしく、読んでいて気持ちがいいですね。

【ストーリー】

杏花(きょうか)は高校入学をきっかけに一人暮らしをすることになります。桜の花がもうすぐ満開になろうとするかのように一人暮らしへの期待をふくらませ、引越しを終えたとおもいきや、不動産屋の手違いで部屋を出なければいけなくなります。

そんな時に、隣に住む自分と同じ年頃の女の子に「あたしの家にくればいいよ? それで全て解決でしょ?」と声をかけられ、杏花はその言葉に甘え居候することになります。

家主の女の子と話をしているうちに、彼女の名は有在(ありす)といい、同じ高校の同級生だということがわかります。有在はぱっと見は素行不良な感じで、停学処分を受けたため留年したということです。

杏花はこまめに家事をこなしながらも、有在の無愛想で気まぐれでわがままな性格に振り回されながらも一緒に過ごします。

 

【感想】

男女にかかわらず思春期の気持ちを繊細に描いている作品は自分の好みの類だったりします。

物語は終始杏花の視線で描かれています。事細かに杏花の気持ちが綴られていて彼女に感情移入してしまいますね。作者の直井章さんはこれがデビュー作ということですが、スッキリした文章で繊細な心の変化をうまく書いているなと感じました。

杏花はわりと普通で前向きな性格です。彼女は両親が離婚しその子どもの頃に両親が離婚し母親に引き取られました。働き出した母親に変わって家事をやってきたので、高校生とは思えない生活力を発揮しています。

いくら子どもの頃から家事をやっているとはいえ、ガスコンロの五徳や汁受けを重曹水に付けて汚れを落とすって、優秀すぎですよ(笑)

一 方有在は素行不良な感じといっても、いわゆるヤンキーという感じではなく、クールな変人という方がぴったりきます。停学になった原因のことで学校では誰も 彼女によりつかず、尾ひれをつけた噂が流れています。有在は他人に関心をもつことも、他人に対して感情の起伏をみせることもほとんどないため、誤解を受け やすいようにも思います。家ではひたすら活字をあさり、歌舞伎と格闘技オタクだったりもします。

料理の好きな杏花がお弁当を作ってくれたことに対して、「料理好きのあなたに私が人肌脱いであげる」「これ毎日作らせてあげる」と言ったのは、もう新たなツンデレ名セリフの誕生といってもいいでしょうw。

性格がどこか破綻しているといってもおかしくない有在と、彼女に比べれば普通の性格の杏花はなかなか距離感が縮まりません。

どちらかといえば杏花は自分が折れることで有在とうまくやれているという感じがあります。でも、有在もときおりツンデレ感たっぷりに彼女に思いやりをあらわす、離れすぎず、近すぎずという距離感が読んでいて楽しいです。

物語が進むと、事情は違ってはいますが二人とも母親の存在が心に大きくて重い蓋となってかぶさっていることが分かってきます。

しかし、お互いの母親のことで気持がすれ違ってしまい、杏花は有在のところから出ていきます。

有在と別れて杏花は暗い日々を過ごしますが、心配した友達のキリのアドバイズで、母親と会って自分の気持にケリをつけようと突然学校を飛び出していきます。

杏花の背中を押したのはキリですが、突如動き出す杏花の破天荒ぶりは、有在の破天荒な性格の影響、これを超えればまた有在と近づくことができるのではないかという期待、そしてもともと杏花の持っている気持ちの真っ直ぐさからなのだと思います。

母親への気持ちを清算した杏花は、今度は有在の番だと言い、有在を今にも壊れそうな自転車に乗せて危篤の母親の元へ走るシーンは感動的です。

また、有在も杏花にふれて、少しだけ他人に気持ちを見せられるようになり、今まで誰にも話さなかった母親のことや停学の発端となった事件の真相を杏花に話します。その話で杏花は彼女の本来のやさしさをあらためて知ることになります。

この物語は桜の花が咲き始めてから、散ってしまい葉が茂るまでの短い間のお話でした。桜が咲き若葉が茂るという生命を感じさせる季節は、彼女たちの若くエネルギッシュな気持ちを描いていくのにふさわしい舞台だなと思いました。

イラストはふゆの春秋先生です。“放課後の魔術師(メイガス)(土屋つかさ 著)”で主人公の播機遙をとても魅力的に描いていました。

この作品の二人もとても可愛いですよね。実は表紙買いで読んだら大アタリでした。

 

2012年05月26日読了

★★★★★

 

桜色の春をこえて
直井 章 (著), ふゆの 春秋 (イラスト)
アスキーメディアワークス 電撃文庫
2011年11月10日発売

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