わが母の記

“心地良い自己嫌悪に陥りました”

人気作家の伊上洪作は少年時代に母親と離れて暮らしたことから、母親に捨てられたと思いを抱いて生きてきました。

父親が亡くなり、母親の暮らしをどうするのかが問題になります。

洪作は妻や娘たち、妹たち家族の助けを借りながら、老いとともに認知症の進む母親の面倒を見ることになり、洪作は捨てられた憎しみを抱きながらも母親と向き合います。

この映画は作家井上靖の自叙伝的小説を原作としたものです。

率直に言うと、映画の内容や出演者の演技、人の生活と融合した日本の風景などとても良かったです。

ついつい自分と親、自分と妻や子どもたちなど、自分が家族に対して抱いている感情と重ねあわせてしまい、自己嫌悪を抱いてしまいました。映画の感想というより、自分語りになってしまうかもしれませんがお許し下さいね。

ストーリーは洪作(=役所広司)は母親に対する憎しみと愛情の相反する感情を抱きながら、母親の八重(=樹木希林)に接します。洪作の末娘琴子(=宮崎あおい)はそんな父親の気持ちとは関係なくおばあちゃんが好きだからという気持ちで八重に接しています。八重に対する気持ちの相違からの洪作と琴子はちょくちょくぶつかります。しかし、八重と過ごす時間が長くなるにつれて、洪作と琴子も徐々に仲の良い親子になっていく様子はストーリーを豊かにしていると思います。

洪作は現在の自分を子どもと認識できなかったり、同じ事を何度も話したりという八重の様子に戸惑います。子どもにとって親から自分が誰だかわからないと言われることは、ショックだし、どう接したらいいのか戸惑います。自分も祖母が亡くなる前に何度か病院に見舞いに行きましたが、時々僕のことが誰だか思い出せなくなっていたのは、なんだか寂しい感じがしたのを覚えています。

認知症のことは笑えないのですが、樹木希林ならではの間合いでどことなくコミカルです。過度に深刻にしたり、軽々しく茶化すということもない無邪気なおばあちゃん象でした。彼女独特のユーモラスなイメージもありますが、老いていくにつれむしろ無邪気になっていく様子を描いているのかもしれません。

琴子(=宮崎あおい)の父が祖母に対して抱いている心の壁と関係なく、祖母に親しく接する姿は自分とは正反対だったなと思います。

また、主人公の洪作を演じた役所広司も、その時代ならではの一家の大黒柱っぷりを発揮しています。でも、自分のことが誰だか分からなくなった母親へのとまどい、自分を捨てた母への憎しみが晴れた表情、ラストの姥捨て山と自分の気持を重ねて感情を吐露する場面などが良かったです。

終盤では自分が抱いていた母親への憎しみと、母の自分に対して抱いていた愛情がすれ違っていたことを洪作は知ります。しかもそれは洪作の妻の口からサラリと言われます。そんなところは家族というのは一緒に暮らしていたとしても、思っているよりもお互いのことを何も知らないものなのだなと思いました。

洪作も琴子も親に対して反発する気持ちを持っていても、どうしても関係を切り離すことが出来ない。なぜならその気持ちの裏側には愛が常にあるのだからとあらためて感じました。

チラシにもなった晴れやかな表情で母をおんぶする洪作と、自分の中の息子にようやく再会できたことに安すらぐ八重の表情はとても心に染みてきます。

自分の祖父も母も認知症になる前に亡くなり、祖母はわりと最近に亡くなり、父親だけがまだ生きています。父親には何かしらの嫌悪感を抱いていてついつい距離をとってしまいがちです。そして自分が一緒に暮らしている妻や子どもとも、子どもが成長するにつれ距離が離れていってしまっているように思います。いつもべったりということではありませんが、もっと自分の気持に素直に家族と向き合ってもいいんじゃないかと思えるような気がしてきました。

八重と向きあう洪作や琴子の姿を見て、自分に嫌悪感を懐いてしまいました。それはどこまでも自分を責めて追い込んでしまうような嫌悪感ではなく、もう一度家族と向きあおうと心を向けてくれ、閉ざしてしまった心をほぐしてくれるような、むしろ心地よい自己嫌悪といえるかと思います。

2012年04月30日 ユナイテッド・シネマ新潟にて鑑賞
おすすめ度:★★★★★
中学生から年頃の女性まで演じ分ける宮崎あおいの演技はすごいです。

原作:井上靖“わが母の記~花の下・月の光・雪の面”
脚本・監督:原田眞人
2011年 日本作品

リンク
“わが母の記”公式サイト

わが母の記@ぴあ映画生活
象のロケット

「わが母の記」への20件のフィードバック

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  4. 私の祖母も認知症でした。
    私が社会人になっても田舎に帰るたびに私の事を大学に入ったばかり
    だと思っていました。もちろん話を合わせていましたけどね。
    一緒に生活はしていませんでしたが、亡くなった時には自分にもっと
    出来たことがあったんじゃないかと思いました。
    孝行したいときに親はなし。解っていても中々出来ないものですね。

    1. > KLYさん

      コメントありがとうございます。
      親が生きているうちに親と向き合うというのは、なかなかできる事ではないように思います。
      僕は生まれてからかなり長い間、共働きの両親に代わって祖母が面倒を見てくれてました。
      子供の頃から自分の中でそだってきた祖母のイメージと、年老いて身体は小さく弱々しくなり、記憶が曖昧になっていく様子のギャップと向きあうのはなんだかせつないものがありました。
      親孝行は気づいてからあれこれやっても、やはりどこかで後悔が残るものなのですね。

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  10. 変わるのって難しいですよね。
    私が変わったことで、家族が変わりました。でも、ご存知のようにそんなに上手くいったわけでもなく、ごたごたが沢山ありました。
    今も、成長したいと思いますが、上手くいかない日々です。

    いろいろありますが、ご家族と上手くいくといいですね。
    いつでも、メールくださいね。

    樹木希林さんが観てみたいと思います。
    なかなか、いいチラシで期待が膨らみました。

    祖母が認知症の気配があり、同じ話を繰り返しますが、電話で悲しくなります。
    やる気自体が衰えているようで、ごはんを作るのが面倒になりスーパーで買ってきていることが多いようです。
    祖父母に会いに行きたいと思いますが、母を連れていくと問題ごとが起きるのは目に見えているので、父も嫌がっています。
    私だけで、行くのはダメみたいです。

    1. >瑠梨さん

      コメントありがとうございます。

      家族は近い存在だけあって、関わり方が難しいですね。

      映画は今上映されているものでは、かなりオススメです。演技派揃いで見応えも十分です。

      お祖父様、お祖母様に会いにいけるといいですね。

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