サラの鍵

“二人の女性の人生が時代を越えてつながっていく運命の不思議さに魅せられます”

1942年7月16~17日にドイツ占領下のパリ市内では、フランス警察によるユダヤ人の一斉検挙が行われ約13,000人が逮捕されたとされています。

逮捕されたユダヤ人は冬季屋内競輪場(=ヴェル・ディブ)に水も食料もないまま数日間押し込められ、順番に収容所へ移送されたことから、ヴェル・ディブ事件と呼ばれています。

この事件は1995年にシラク大統領が正式に国家の関与を認め、謝罪したことで明るみになった出来事です。

女性ジャーナリストのジュリア・ジャーモンド(=クリスティン・スコット・トーマス)は、この事件について取材を始めます。

取材をすすめる中で、夫が祖父母から譲り受け、これから住もうとしているアパートにかつてヴェル・ディブ事件で検挙されたユダヤ人の家族が住んでいたことことを知ります。

事件の朝、警官がやってくると、そこに住んでいた少女サラ・スタルジンスキ(=メリュジーヌ・マヤンス)は弟を納戸にかくまい、「すぐ戻るから、ここに隠れているように」と言い聞かせ、扉に鍵をかけます。しかし、サラと彼女の両親は検挙され、サラは鍵を持ったまま収容所へ移送されます。

ジュリアはサラが弟を助けようと収容所から脱走していたことを知り、彼女がその後どうなったかに興味を持ちます。

一方、40歳を過ぎたジュリアは、不妊治療や何度かの流産を経て、ようやく望んでいた妊娠をしたことを知ります。夫のベルトラン・テザック(=フレデリック・ピエロ)に報告したところ、夫は自分は歳を取り過ぎていて、いまさら子育てはできないと出産に反対します。

ジュリアはベルディブ事件のことを取材する中で、夫が祖父母から譲り受けたアパートにサラという少女がかつて住んでいたこと、犠牲者名簿の中にサラの名前が無いことを知り、サラの存在に心を惹かれます。

映画は現代を生きるジュリアと、ヴェル・ディブ事件やその後のサラが交互に描かれています。

ベルトランはジュリアに“家族がアパートに関する真実を知ることを恐れている”と話し、ジュリアにサラのことを調べようとするのを止めるように言います。

第二次世界大戦を体験したパリの人々の間には、“知っていたとしても口にしてはいけない”、“目を向けてはいけない”というような、自らが罪を犯してしまったかのような後ろめたい空気があるようにも感じます。

しかも検挙された人々が押し込められた冬季屋内競輪場は取り壊され、現在はフランス内務省の建物が建っているというのも、皮肉めいているというか、ずるがしこい隠蔽のように思います。

事件当時、サラは弟のことだけを思い続け、収容所を脱走し、たどり着いた農村で老夫婦デュフォール夫妻に助けられ、アパートにたどり着きます。しかし、アパートにたどり着いたのは検挙から1月以上たってからで、かつての住まいには既に別の家族(ジュリアの夫の祖父母達)が住んでいました。

そして、納戸の鍵を開たサラは弟の遺体を発見するというショッキングな事実に遭遇してしまいます。

姉が戻ってくることを信じて待ち続けた弟、弟を助けることだけを思い続けてきたサラ、それぞれの思いがしたたかなだけに、サラの心が折れてしまった傷の大きさは計り知れません。その後サラはデュフォール夫妻のもとで過ごしますが、突然姿を消しアメリカへ渡ります。

サラにとって自分ユダヤ人であること、弟との約束を果たせなかったことは、心の中に深く濃い影となっていたと想像します。

アメリカで家庭を築いても、自分の身の上を家族にさえ一言も話さなかったようです。

短絡的な考えになってしまいますが、アメリカにはユダヤ人も多くいるのですから、自分がユダヤ人であることを隠す必要はないのかと思います。サラは子どもが危険にさらされるといけないという理由からユダヤ人であることを隠していたとのことです。本当は自分を責める気持ちから、自分の存在そのものを無かったことにしたいというような重たいものを常に心に抱えていたのかもしれないです。

ジュリアが病院で今まさに中絶手術を受けようとしていてるときに、サラのことを知るデュフォール夫妻の孫娘から電話がかかってくる場面では、ジュリアとサラの間に何か運命がかったつながりが強く芽生えた感じがします。

ジュリアはニューヨークでサラの家族を見つけ出し、イタリアにいる彼女の息子ウィリアム・レインズハード(=エイダン・クイン)を訪ねます。ウィリアムは自分の母親がユダヤ人であるということを一切知らず、ジュリアの話を聞こうともしません。それからしばらくして、ウィリアムは父親(サラの夫)の病状が悪化したことでニューヨークに戻り、父親から母親のことを始めて聞かされます。

サラのことが分かってくるに連れて、ジュリアが抱えている出産、夫との関係、夫の親族との関係などの悩みが少しずつ晴れていく様子は観ていて心地よかったです。

ジュリア役のクリスティン・スコット・トーマスは、働きながらも家庭のことや出産に悩む普通の女性を繊細にうまく演じていたように思いますし、少女時代のサラ役のメリュジーヌ・マヤンスは、責任感が強く弟のところへ行こうとするサラを情熱的に演じていたと思います。

ラストではウィリアムがジュリアに“ありがとう”と言いながら涙を流します。ウィリアムが母親の真実を知ることができたこと、母親の記憶と名前が未来に残ったというだけではなく、ジュリアによってサラの心の中に暗く重くのしかかっていた自責の気持ちが赦されたからなのではないかとも感じています。

家族ですら断片的に知らなかったサラの人生を、ジュリアが取材することで、サラの物語がつながって、それがウィリアムやジュリアの心につながっていくというストーリーは不思議な感じがして、ラストはとても温かな気持ちになります。

2012年03月25日 ユナイテッド・シネマ新潟にて鑑賞
おすすめ度:★★★★★4.5
サラを助けたデュフォール氏を演じたニエル・アレストリュプは戦火の馬でも重要な役を演じてましたね。

 

おまけ
ヴェル・ディブ事件のことをテーマにした映画“黄色い星の子供たち”の感想はこちらです。

 

原題:Elle s’appelait Sarah
監督:ジル・パケ=ブランネール
脚本:ジル・パケ=ブランネール・セルジュ・ジョンクール
原作:タチアナ・ド・ロネ
出演:クリスティン・スコット・トーマス、メリュジーヌ・マヤンス、ニエル・アレストリュプ、フレデリック・ピエロ、エイダン・クイン
2010年 フランス作品

リンク

“サラの鍵”公式サイト
サラの鍵@ぴあ映画生活
象のロケット

 

原作の小説はこちらです。
(2010年にノーベル平和賞を受賞した中国の劉暁波(リュウギョウハ)氏が獄中で読んでいたことでも注目を集めたということです。)

サラの鍵 (新潮クレスト・ブックス)

「サラの鍵」への50件のフィードバック

  1. 客観的にみてとても重い話なんですが、『黄色い星の子供たち』
    とこの作品の描き方の違いが面白いですね。
    今思うと、観た順番としてもこの順番がよかったなと思っています。
    あらかじめこれほどのことが実際にフランスであったのだという
    知識を持った上で本作を観ることは、少しでもフランス人としての
    立場に近付いて見ることができたかななんて思ったりもしました。

    1. > KLYさん

       コメント有難うございます。僕もこの映画を観る前(に「黄色い星の子供たち」を観ました。
      黄色い星の子供たちからは事件を生き抜いた当事者からの視線で、どんな出来事だったのかを知ることができました。
      国が正式に関与を認めたとはいえ、フランスの人々の心に大きな影を残している事件だったのだなとあらためて感じました。
      それだけにサラのことを調べるのは容易ではないと思いますし、ジュリア自身が何か運命的なものを感じて心が動かさなければ、仕事という枠の中だけでは知ることのなかった物語だったと思います。

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