戦火の馬

“終盤の指笛は鳥肌モノです!”

第一次世界大戦がもうすぐ始まろうというイギリス。小作農のテッド・ナラコット(=ピーター・ミュラン)は農耕馬を買いに競売の会場に来ています。

彼は友人が農耕馬に向かないと止めるのをきかず、体は小さく気性の荒い馬をひと目で気に入り、とんでもない値段でこの馬を競り落とします。

馬を連れて家に帰ると、妻のローズ(=エミリー・ワトソン)は呆れ返りますが、息子のアルバート(=ジェレミー・アーヴァイン)はこの馬が気に入り自分が調教するから馬を手放さないで欲しいと母親に懇願します。

アルバートは馬にジョーイと名前をつけて大切に調教し、心を通わせていきます。アルバートが最初に教えたのは、フクロウの鳴き声を真似た指笛を鳴らしたら自分のところに走ってくることです(←ココ、テストニデマス)。

馬にお金をかけすぎたため小作料が払えなくなったテッドは、地主にジョーイを使って新たに畑を開墾し作物を植え、その収穫で得たお金で小作料を払うと約束をします。

村の人々はなかなか鋤をひくことができないジョーイを笑いに見物にやって来ますが、アルバートの必死な働きかけでジョーイはまたたくまに荒地を開墾し畑にすることを成し遂げます。

しかし、収穫が近いという時に嵐がやってきて作物はすべてダメになってしまいます。

時を同じく、イギリスはドイツに宣戦布告をします。テッドは小作料を工面するためにアルバートにだまって、ジョーイを軍に売ってしまうのでした。

馬を引き取った将校はアルバートに“いつか君に返す”と約束しますが、フランスで戦死してしまいます。生き残ったジョーイは戦争に運命を翻弄される人々と数奇な出会いと別れを繰り返します。

マイケル・モーパーゴが1982年に発表した同名小説を、スティーブン・スピルバーグ監督が映画化した作品です。

テッドは足が悪く、常に酒瓶を離せないでいます。そんな父のことを母のローズはアルバートに“彼はアフリカでの戦争で自らが負傷しながらも、負傷した仲間を助けたことで勲章を受けたが、そのことを誇りに思うよりも、人を殺してしまったことを悔やんで苦しんでいる。でも彼なりに立ち直ろうと努力している”と語ります。

勇敢だと褒められたことよりも、戦争で人を殺してしまったことで心に傷を追ったテッドが酒に溺れるのもわかるような気がします。また、彼はいい農地は兄弟に譲り、自ら条件の悪いところで耕作をしているというのも、自身が背負った罪を自分で戒めているのかもしれません。そして、このエピソードはその後の物語に登場する人々が直面する戦争の不条理を暗示しているように思います。

ジョーイを引き取った将校の戦死以降、ジョーイは戦争に翻弄される人々との出会いと別れを繰り返します。ドイツの少年兵の兄弟、両親をなくした少女とその祖父、ジョーイと出会った彼らの運命は、いずれも戦争の不条理により運命を弄ばれてしまいます。

両親をなくした少女の祖父(=ニエル・アレストリュプ)は少女に次のような話をします。

“戦争でもっとも勇敢なのはフランスの伝書鳩で、最前線から“帰れ”の一言で本拠地へ帰る。しかし、最前線から本拠地に帰るということは凄惨な光景が広がる戦場の上を飛ばなければ行けない。それを目にすると恐怖で飛べなくなってしまうため、ひたすら前を向いて飛び続ける勇気が必要なのだ。”

少女の祖父の言葉は傷つきながらも戦場を駆けるジョーイの心情とも言えるでしょう。ジョーイはミスター・エドのように人の言葉を話すわけではないので、こうした演出はよくできていると思うのです。

第一次世界大戦を舞台にした映画ではクリスマスには敵味方もなく酒を酌み交わし歌ったり踊ったりして打ち解けたかと思いきや、また翌朝には互いの陣地に戻って銃を撃ち合ったというエピソードを観たことがあります。

この映画でもイギリスとドイツの部隊が休戦し、イギリス軍とドイツ軍の中間地帯で全身に有刺鉄線が絡まり身動きできなくなっていたのを両軍の兵士が助けるシーンがあります。

救助にあたったイギリス兵もドイツ兵もお互いに弾にあたるなよなどとと言って別れますが、その数十分後には撃ち合いになるというのは戦争の厳しさを強く語りますよね。

開戦から何年か経ってアルバートも故郷の友達とともに戦地に赴きます。アルバートは戦闘で毒ガスにより負傷し、野戦病院に送られます。偶然にもそこには有刺鉄線で傷だらけになったジョーイも運ばれてくるのです。

しかし、ジョーイは破傷風にかかっていて、銃殺されそうになります。そこに聞こえてきたのが、フクロウの指笛なのです。

銃を突きつけられているのに、この指笛にジョーイが応じて、過酷な戦場を生き抜いてきた二人が再会するところは本当に鳥肌が立ちますよ。

そして、ドイツは降伏して戦争は終結します。これでアルバートとジョーイは戦争前の関係に戻れると思いますが、そこでまたいくつか波乱に見舞われます。このラストのいくつかのエピソードは感動的でこの映画の全てを物語っているかのように思えますが、ここはあえて書かないでおきましょう。

スピルバーグ監督は物語を幻想的にしたり大げさに誇張するということもなく、美しい映像を用いて極めて現実的(観る人がリアルに感じる)に表現していると思います。

往年の名画と呼ばれる作品をよく研究しているのか、どことなく風と共に去りぬを思わせるような画面の作りもあったように思います。

また、スピルバーグ監督作品ではおなじみのジョン・ウイリアムズの楽曲も情感にあふれて素晴らしいです。

宣伝文句ではアカデミー賞最有力とうたっていましたが、実際には一つもオスカーをとることができませんでした。

これほどの映画がなぜ?って思いますが、僕の個人的な想像としては“きわめて現実的すぎる”からというのが理由ではないかと思います。

でもそういう屁理屈は二の次で、やはりアルバートや戦争に翻弄される人々とジョーイの触れあいや、戦争にもてあそばれる運命の描写に感動ですよ。

 

★★★★☆

素直に感動です。

2012年03月10日 T・ジョイ新潟万代にて鑑賞

原題:WAR HORSE
監督:スティーヴン・スピルバーグ
脚本:リー・ホール、リチャード・カーティス
原作:マイケル・モーパーゴ
音楽:ジョン・ウイリアムズ
2011年 アメリカ作品

リンク
“戦火の馬”公式サイト
戦火の馬@ぴあ映画生活
象のロケット

 

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