少女不十分

この物語は30歳なった小説家が自分の小説家としての有り様を語る中で、小説家志望の大学生の時に巻き込まれた事件を思い起こすという物語です。

大学生の主人公は大学へ向かう途中、通学途中にゲームをしながら歩いている二人組の少女を見かけました。

少女の一人は赤信号に気づかず道路を渡ろうとしたところトラックにはねられて即死でした。一緒にいた少女Uは、はねられた女の子に駆け寄り泣き叫んでいました。

しかし、少女Uが友人の遺体に駆け寄る前にゲームをセーブしてランドセルにしまうところを見てしまったのです。

「あなたは私を見たから」という理由でUは主人公を自宅に拉致監禁するのでした。

 

西尾維新先生が“この本を書くのに10年かかった”と言っている作品です。あれだけ筆の早い方ですから、そんなことはなくもしかしたら単にデビューして10年ということなのかもしれません。

この小説はどちらかというと主人公が、脈々と独白をするというものです。大学生の主人公が事件に巻き込まれる話も大学生の主人公の視点ではなく、30歳になった主人公からの視点で描かれています。

自分のトラウマになるような出来事だと語っていますが、それでも10年も経つと記憶は曖昧になっていくのか、主人公とUの会話らしい会話はほとんど登場しません。

Uが主人公を拉致監禁した動機や、U本人がどのような子どもで、普段どのような生活を送っているのかなどは主人公の想像だけに留まっています。事件の真相は曖昧なままです。

やはり事件がからめば、事件の動機や真相、あるいはUがどのような子どもでどんな生活をしているのかなどのことに向けて薄皮を一枚ずつ剥ぎながら明らかになっていくことを期待しちゃいますが、この物語ではそういうことがなく、主人公がおそらくこうだろうと想像しただけにとどまっています。

主人公の事件当時の状況や心境についての独白は、回りくどかったり言い訳がましい感じがしつつも、読んでいくととUとの関わり方の変化、気持ちの移り変わる様子に引きこまれていきます。

ネタバレになりますが主人公が記憶しているこの事件の真相は結局明らかにならないままで、その後Uがどうなったのかもわからないままです。

最後にまた30歳の主人公の話に戻るのですが、担当の編集者が寿退社するということで、後任の担当者と三者で引き継ぎの打ち合わせをすることになるのですが、そのラストは最初からラスト直前までモヤモヤしていた感じにすっと光が差し込んだような気分になります。

あとがきにもありましたが、文中ではUの外見はランドセルを背負っているとかそのくらいしか書かれていませんが、この表紙のイラストは妖しさや闇を抱えているUの雰囲気がよく出ていると思います。

2012年1月24日読了

少女不十分
西尾 維新 (著), 碧 風羽 (イラスト)
講談社ノベルズ刊
2011年09月07日発売

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