未来を生きる君たちへ

“憎しみの連鎖はどう断ちきるのか、価値観の違いをどう解消するのか、二組の家族を中心に語っています”

デンマークに家を持つスエーデン人の医師アントンはアフリカの難民キャンプで人々の治療にあたっています。診察中には暴力で権力を掌握しようとしている“ビッグマン”によって腹を切り裂かれた妊婦が運び込まれることもしばしばあります。

アントンの息子のエリアスは弟と一緒に母親のマリアンのもとで暮らしています。アントンが帰国したことを子どもたちが喜んでも両親は別居中です。

ある日エリアスのクラスに、母親を亡くしたクリスチャンが転校してきます。その放課後にエリアスはいじめっ子のソフスに絡まれ、クリスチャンは巻き添えを食ってしまいます。その翌日ソフスがエリアスをいじめているところに、クリスチャンが現れ、空気入れでソフスを殴り警察沙汰になります。クリスチャンの父親は“やられたらやりかえす”ではきりがないと言い聞かせるが、クリスチャンは“やり返さなければますますやられてしまう”と反論します。

アントンが帰国したときに、子どもたちとクリスチャンを連れて出かけた時、エリアスの弟が公園で見知らぬ子どもと喧嘩になりました。アントンは喧嘩を止めようとしますが、相手の子の父親に理由もなく殴られます。

クリスチャンとエリアスはアントンを殴った男はラースという名前で彼の仕事場を割り出します。翌日アントンは子どもたちを連れて男の職場を訪ねます。アントンは殴った理由を男に訊ねますが、再び男はアントンを殴ります。アントンは男に手を出さず、帰り道に“殴ることしかできない、愚かな人間だ”と子どもたちにいいますがクリスチャンはやり返さなかったことに納得が行きません。

アントンがアフリカへ戻った後、祖父の作業場で大量の火薬を発見し、それでアントンを殴った男へ仕返しをしようとエリアスに持ちかけます。

一方アフリカのキャンプでは、キャンプの人々から家族を殺されたことなどで恨みを買っている、“ビッグマン”がやってきて、怪我をした脚を治して欲しいとアントンに頼みます。

この映画では、人を許すことの難しさ、理由のない暴力やそれに対する報復による不幸の連鎖、夫婦・親子・友人の気持ちのすれ違いなどが二組の家族を中心に描かれています。

いくつかのエピソードごとに感想を書いてみます。

 

【すれ違う父と子】

 クリスチャンは父親から“報復からは何も見いだせない”と言われますが、彼は“やりかえさなければいつまでもやられっぱなしだ”と主張します。主張が反発すればするほど彼と父親の溝は大きくなります。父親との反発が強くなるほどクリスチャンのやられたらやり返すというのが爆弾作りにまでエスカレートしていきます。

 また、クリスチャンの母親はガンで亡くなるのですが、母が死んだのは父が見捨てたからだと父親を責めます。しかし、父親はガンの苦しみで自分も妻も限界まで来ていた。妻を苦しみから開放するには、見捨てるしかなかったと父親の話を聞き、ショックを受け、彼は自分を自身で追い詰めていってしまいます。

この映画に登場する父親は子ども達に“話をしよう”としきりに言っていることです。自分もそうですが、対話することというの はとても少なくなっています。家族と距離があいてしまうと、その距離を縮めるために何かするというのもとても恣意的な感じがしたりして、距離を縮めるのは 難しいと実感しています。日頃から対話をするようにしているというのは、価値観の違うものがお互いに理解するためには大切なんだと思います。

 

【別居する夫婦】

アントンとマリアンは離婚はしていませんが別居中です。原因はアントンの浮気のようです(会話からの推察)。しかし、アントンはもう一度やりなおしたいと妻に電話をしますが、傷ついた心が癒えて彼を許せるようになるまではまだ時間がかかるとなかなか話を受け入れることができません。一度誰かに傷つけられた心から、その傷はなかなか消えることはありません。相手を許してもいいのではないかという意識はあるのかも知れませんが、心はなかなかそれを受け入れることができないものなんでしょう。

 

【クリスチャンとエリアス】

 クリスチャンはエリアスをいじめるソフスにナイフを突きつけたり、港にある立入禁止の倉庫の屋上に上ったり、果ては爆弾作りまでやってしまう、かなり過激な少年です。エリアス倉庫に上がることを父親から禁じられますが、それでもクリスチャンと屋上に上がったりします。クリスチャンに比べておとなしいエリアスは、断れば友達を失い何をされるか分からないからクリスチャンに従うのかと思います。

 クリスチャンの作った爆弾でエリアスは大怪我をしてしまいますが、それでもクリスチャンと笑顔で言葉を交わすエリアスの様子は希望を感じます。

 

【アントンとビッグマン】

 アントンが診察をしている難民キャンプの人々にとって、ビッグマンはこれ以上にないほど憎まれています。アントンもそのことは重々に知っていたはずです。ビッグマンが脚を治して欲しいと診療所にやってきたときに、周りの地元の医師や看護師は一切手を貸しませんでした。“なぜ彼を助けるのか?”という周りの問に対して、アントンは“自分は医者だから仕事をするだけだ”と答えます。

彼は医者という立場を利用すれば、ビックマンの脚を切断し、ともすれば命を奪ってしまうことも出来たかも知れません。彼はキャンプの人々の気持ちを考えればアントンにだってそうしたいという気持ちは少なからずあったのだと思います。

彼の中には子どもたちに言い聞かせたように報復からは何も生まれないという考えもあり、ビッグマンへの怒りを抑えこみ、その矛盾を断ち切るため医者の仕事をすると自分にのだと思います。

しかし、松葉杖で歩けるようになったビッグマンが発した一言はアントンの逆鱗に触れ、アントンはビッグマンをキャンプの人々の前に放り出してしまいます。頭の中では暴力による報復はいけないと分かっていても、心はそれをすべて受け入れるというのは簡単なことではないと思います。

 

【アフリカとデンマーク】

デンマークでのアントンやエリアス、クリスチャンの様子は言ってみればミクロな世界です。特にこの復讐からは何も生まれず不幸な連鎖を招くばかりだということが、デンマークでは学校のいじめへの仕返しやラースへの仕返しという形で描かれています。その考えをアフリカという舞台に移すと、それが理不尽な暴力が人々の生命や住む場所を奪い、それへの報復がより多くの犠牲者を出すという連鎖につながっているように感じます。

 

最後に、この映画は二組の家族が中心となっていますが、暴力による不幸の連鎖、人を許すことの難しさ、価値観の違いをどう折り合いをつけるかなどは、今の世界に投影してもピッタリ当てはまるように思いますし、自分自身が日頃悩んだり面倒くさかったりする他人との関係に共感のもてる作品でした。

世界が抱える病理も考えてみれば、個人や家族が抱える悩みや苦しみと共通しているかのように思います。

 

2011年12月4日  新潟・市民映画館シネ・ウインドにて鑑賞

おすすめ度:★★★★★

 

原題:Hævnen
監督:スサンネ・ビア
脚本:アナス・トマス・イェンセン
出演者:ミカエル・パーシュブラント、トリーヌ・ディルホム、ウルリク・トムセン
2010年デンマーク、スエーデン作品

 

リンク

未来を生きる君たちへ 公式サイト

未来を生きる君たちへ@ぴあ映画生活

 

ポチっと応援よろしくお願いします。

にほんブログ村 映画ブログへ

にほんブログ村

 


未来を生きる君たちへ [Blu-ray]

「未来を生きる君たちへ」への19件のフィードバック

  1. ピンバック: LOVE Cinemas 調布
  2. ピンバック: 佐藤秀の徒然幻視録
  3. ピンバック: カノンな日々
  4. ピンバック: 映画のブログ
  5. ピンバック: こねたみっくす
  6. ピンバック: TRUTH?ブログエリア
  7. ピンバック: Cartouche
  8. ピンバック: 真紅のthinkingdays

コメントを残す