煉獄姫

 “非情さと幼さの二面性を持つアルトも魅力的ですが、物語の構成のうまさに作者の力量を感じます”

現世とは異世界の“煉獄(れんごく)”。その大気は甘い花の香りを放ち煉術(れんじゅつ)によってあらゆる物質やエネルギーに変換することが出来ます。しかし、一方では人間には有害な性質を持ちます。

煉術により産業革命が起こったばかりの瑩国(えいこく)の首都匍都(ハイト)は貧富の差が拡大し、階層ごとに区切って街を形作っています。

本来の第一王女であるアルテミシア(=アルト)は、生れながらにしてその煉獄へ繋がる扉を身の裡に孕む特異体質の持ち主です。常に毒気を身に纏い自分を生んだばかりの母親をはじめ、近寄る者すべてを殺してしまうため、普段は呪われた子として城の地下牢に幽閉されています。

地下牢以外の世界を知らない彼女は時々従者の少年騎士フォグと共に、王家の密命を受けて、外へ出ることがあります。それは、“煉術師”として国家を脅かす物事を阻止するためなのです。

密命を受けて出かけたアルトとフォグは過激派が聖堂を爆破しようとするのを阻止します。そして、そこで見つかった腕輪を巡って様々な策略が渦巻きアルトたちを巻き込んでいきます。

 

文明の発達で一層闇が狭く濃くなった退廃的な首都匍都(ハイト)の様子や、島国であり煉術の最先端を行く瑩国、腕輪の出所となり瑩国の脅威となる悳国(とくこく)、正統丁字教(ていじきょう)の法王庁を置き煉術を異端とする丁国(ていこく)の微妙な力関係などの舞台は、異世界とは言いながらも産業革命が始まったばかりのヨーロッパのイメージとつながり、現実感のあるものとなっています。

煉術師は“鍵器(けんき)”と呼ばれる道具で煉獄への扉を開き、その大気を練り上げ煉術発動するものです。アルトは鍵器なしで手練の煉術を凌駕する力を持った煉術使えるほどの力を持っています。

煉術師としてのアルトには人を殺すことすらなんとも思わない非情な側面もありますが、そうでないときは地下牢だけが自分の世界であるせいか、気まぐれでわがままで幼さを持った歪な人格のように感じます。

そんなアルトを時には守り、時にはなだめすかしたりするフォグの誠実さは好感が持てます。また、毒に耐性を持つメイドのイオはアルトを溺愛し、アルトのことでフォグと口論するアルトへの愛情のぶつかり合いは面白いです。しかし、イオはフォグのように完全な耐性がないため、アルトを溺愛していても触れることができないというのは辛いですね。

そんな幼さを持ったアルトが描かれる場面は可愛らしいわがままなお姫様という感じで、煉術師としての場面の緊迫した感じを和らげ、物語に幅を持たせてくれていますね。

アルトは初めて友達となったキリエの死に直面したり、自分以外の人によって殺された人を初めて見たことにショックを受けたり、おっかなびっくり一人で外へ出ようとしたりで、外の世界に触れることで成長していけるかがこれから楽しみです。

そして、最後に明らかになったフォグやキリエの正体は驚きでした。

異世界や異能を扱った話ですがあんまり説明臭い所や中二病っぽいところがなく、政治的な力関係、煉術をめぐる様々な陰謀、戦いの場面、アルトたちの会話などバランスよく散りばめつつ、伏線の張り方もうまいので読みやすく面白いです。

 

煉獄姫 (電撃文庫)
藤原 祐 (著), kaya8 (イラスト)
アスキー・メディアワークス刊
2010年8月10日発売

2011年11月17日読了

異世界ものだけど読みやすい度:★★★★★

コメントを残す