海洋天堂(かいようてんどう)Ocean Heaven

中国のチンタオでのお話。シンチョン(ジェット・リー)は妻に先立たれ、21歳になる自閉症の息子ターフー(ウェン・ジャン)の面倒を見てきました。

しかし、シンチョンは末期ガンであと数ヶ月の命と宣告され、一人では何も出来ない息子の将来を心配し、二人の足とおもりをロープで結び海に飛び込み心中を試みます。

しかし、泳ぎの得意なターフーはロープを解いて浮かび上がり結局心中することができませんでした。

シンチョンは水族館で設備の整備などをして働いています。仕事場にはいつもターフーを連れてきていて、ターフーはショーの合間にプールや水槽で泳ぎ生き物たちと戯れるのが大好きなのです。

また、近所に住む女性チャイ(ジュー・ユアンユアン)はそんな二人をいつもあたたかく接してくれます。

シンチョンは自分が死んだ後のことを考え、ガンの痛みに耐えながらもターフーを受け入れてくれる施設を探したり、ターフーが社会で一人で生きて行くために必要なことを教えようと奔走します。

【感想】

シンチョンのターフーへの愛情や絆の強さだけでなく、ターフーと一緒にいることこそ彼の生きがいとなっているようなところに心打たれました。

僕も今は息子との関係がうまく行っていないせいか、シンチョンが懸命にターフーと生きる姿はとてもずっしり響いて来ました。

自閉症は生まれつきの脳の障害で、社会との関わりや人とのコミュニケーションが困難であったり、興味や行動様式が著しく限られているという特徴があります。ひきこもりや情緒障害のことではありません。トレーニングなどで少しでも社会に適合したりコミュニケーションがとれるようにはできても、自閉症そのものを治療することは今現在は不可能ということです。

コミュニケーションがうまくとれない息子に忍耐強く何度も繰り返し教えていくことは本当に大変なことに思います。しかも親が無償の愛情を注いでもそれが息子に届いているのかなかなか見えてこないいところなんかはシンチョンの辛さでもあったことでしょう。でも無邪気に二人がじゃれあう様子は、そんな辛さを癒してくれていたのではないかと思います。

ターフーを受け入れてくれる施設が見つかり、ターフーはシンチョンと離れて暮らしますが、ターフーがいなくなったアパートの部屋でターフーの真似をしてみたりするシンチョンは心に大きな穴があいてしまったかのようでした。シンチョンは長い間一人でターフーの面倒を見てきたわけですが、実はシンチョンはターフーの存在や彼との触れ合いに支えられてきたとも思えます。

シンチョンがターフーに一人でバスに乗って一人で帰ってくる練習をするという場面があります。ターフーは「降ります」と言えず乗り過ごしてしまいそうになる場面でシンチョンは「言えない子もいるんだよ」とバスに向かって叫びます。多くの人がが当たり前にできることが、その子にはなぜできないのか、何度教えてもなかなか覚えてくれないという悩みや苦しみ、苛立ちなどの気持ちを吐き出しているようにも見えました。

多くの人には出来て当たり前のことが、ターフーにとってはできないことが当たり前で、何が当たり前なのかが違うんですね。障害があるとかなしとかに関わらず、人とのコミュニケーションは「お互いそれぞれ違うんだ」ということを受け入れることから始まるのではないかと思っています。

また、巡業にきたサーカス団の女性リンリン(グイ・ルンメイ)はターフーと仲良くなっていくのですが、このシーンはほんわかとした気持ちになります。ターフーの心にリンリンはどのようにうつったのでしょうか。ターフーは玉子が好きなのですが、リンリンが曲芸で使う白いボールを見て、自分と彼女には同じ所があると感じたのかもしれません。もしかしたら早くに亡くした母親を重ねたのかもしれません。

リンリンもターフーに孤児である自分と共通な何かがあると感じ、ターフーに心のやすらぎをもとめているかのようにも見えました。

リンリンがターフーに電話をかけて、ターフーは受話器をとるのですが、サーカス団は別のところへ旅立ってラストのところでリンリンは電話で海辺の音をターフーに聞かせます。この海辺の音は、ターフーには父のいる水族館で泳いだこと、「自分はウミガメになっていつまでもお前と一緒にいる」といったシンチョンの言葉、電話のことを教えてくれたリンリンのことなどを思い起こさせ、受話器で話すことをしらないターフーは、受話器があたかもリンリンであるかのように見つめるラストは印象に残るとともに、彼が一人で生きていく希望を感じさせるシーンでした。

この映画は淡々としている感じもしますが、クリストファー・ドイルが創りだす映像はなかなか凝ったものになっています。特にターフーが花に水をやるシーン、水族館のプールや水槽でのシーンなど水を使った映像は不思議な感じと優しさが漂う映像ですし、ターフーがリンリンのところにくるシーンで、サーカスの幕の間から顔を出したりするターフーの様子は彼のうまく表現できない繊細な気持ちを表しているかのように思います。そんな雰囲気を久石譲の音楽がうまく盛り上げてくれています。

監督・脚本のシュエ・シャオルーはボランティアや仕事の中で自閉症の施設と関わってきて、その体験が現実味のある映画となっているように思います。

シンチョン役のジェット・リーといえばアクションスターとして有名ですが、彼が演じたのはヒーローでもなくアクションもなく、息子への愛情や苛立ちなどを持つごく普通の父親象で見事な役作りでした。彼はこの脚本に惚れ込んでノーギャラで出演を決意したとのことです。

また、ターフーを演じたウェン・ジャンも自閉症のターフーが感情をうまく人に伝えられないけれども、自分にもちゃんと感情があるという感じの演技も見事でした。

 

死期の迫った父とその死、一人残された障害を持つ子、こんな言葉が並ぶとこの映画はとても悲痛な感じがするかも知れませんが、なぜかこの映画にはそんな感じは全くなく、優しく暖かな気持ちにしてくれます。単に自閉症のことを描いているだけにとどまらず、親が子どもにしてやれることやその絆、人が分かり合うことの難しさなど人間の普遍的なことにも通じている映画だと思います。

7月から各地で随時公開されています。これから上映の地域も多いようですので是非ご覧ください。

 

監督・脚本 シュエ・シャオルー

2010年 中国・香港作品

2011年10月2日新潟・市民映画館シネ・ウインドにて鑑賞(10月14日まで上映)

 

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