とある飛空士への夜想曲 下

とある飛空士への夜想曲 下 

犬村小六(著), 森沢晴行  (イラスト) 

小学館ガガガ文庫

2011年9月17日発売

帝政天ツ上(あまつかみ)と神聖レヴァーム皇国との戦争を、天ツ上のエースパイロット千々石武夫を主人公に描いた物語の下巻になります。

当初空戦では圧倒的な勝利を収めていた天ツ上であったが、戦いが長引く中で圧倒的な物量を誇るレヴァームの反撃を受けるようになってきて、連日のレヴァームの攻撃で次々と千々石の仲間達が墜ちていきます。

千々石をはじめ天ツ上の飛空士たちは、飢えと疲労、航空神経症に悩まされ、この戦争には勝てないとわかっていても、“墜ちていった仲間達のためにも空戦だけは負けられない”、“未来の天ツ上を担う子孫たちを猿と呼ばれて差別させはしない”と戦い続けます。

やがて天ツ上はレヴァームとの最後の艦隊決戦に持ち込み、千々石もその戦列に加わることになります。

天ツ上の艦隊が待機する島で千々石はユキと短い再会を果たしますが、決戦は始まり千々石は待ち焦がれていた“海猫”との一騎打ちに挑みます。

 

【感想】

とにかく一文一文が濃密です。じっくり読んでしまったために思ったよりも読み終わるまでに時間がかかってしまいました。

迫力ある戦闘もさることながら、どんどん悪くなる戦況と次々と空に散華していく飛空士達を目の当たりにして、より生きることと戦うことにこだわりを強くする千々石の内面、仲間達の空戦への想いが高まっていく様子がよく伝わってきます。

特に科学技術や物量で窮地に追い込まれていく天ツ上の様子は太平洋戦争の日米の戦いを連想してしまいますね。

本当にぶっきらぼうな千々石の性格ですが、僚機の杉野や松田だけではなく多くの仲間達に好かれるのは、やはり彼が空で戦うことだけを純粋に求めていることにあると思います。

戦況が悪化する中で周りの仲間達に“お前たちは生き延びろ”と声をかける千々石は既に自分の死を知っていたのかもしれません。

再会したユキの想いはささやかですが、それがかなわないと分かっていても真っ直ぐに気持ちを伝えるところはせつないです。

千々石が待ち焦がれた海猫との戦いは肉体や技術を超越した技の応酬で凄かったですが、海猫に生き延びろと伝えようとした千々石は何を思っていたのか知りたいです。

そして、二人の戦いはレヴァーム皇妃ファナ(とある飛空士への追憶で海猫が操縦する飛空機に搭乗した)にどのように伝わって、彼女が何を思ったのかも気になるところです。

海猫を墜とした後の千々石の戦いは海猫との一騎打ち以上に神がかり的な感じがしました。

349ページのイラストは千々石が最後に見た映像をよく表していてとても美しいです。

上巻の冒頭での歌詞が最後に登場しますが上巻での印象とは違って、好きな人を失った悲しみや鎮魂だけでなく慈愛や生きていこうという決意が込められているように聴こえてきます。

 

いよいよ今週末(10/1)から、この物語の前段となる“とある飛空士への追憶”のアニメ映画の上映が始まります。

ずっと前から楽しみにしているのですが、これを読んだらますます期待が高まってきました。

とある飛空士への追憶

とある飛空士への夜想曲 上 (ガガガ文庫)

「とある飛空士への夜想曲 下」への1件のフィードバック

  1. ピンバック: ぐ〜たらにっき

コメントを残す