日輪の遺産

太平洋戦争の敗戦が色濃くなってきた1945年8月10日。帝国陸軍のトップは、近衛師団情報参謀の真柴少佐(堺雅人)と次期大蔵省のトップと噂される東部軍経理部の小泉主計中尉(福士誠治)を司令部に呼び、極秘の任務を命令します。

その任務は陸軍がフィリピンで奪取した900億円(当時の貨幣価値で)相当の財宝を奥多摩の軍工場に隠し、敗戦後の祖国復興の資金とせよというものです。

中国で負傷し日本に戻ってきた歩兵連隊の望月曹長(中村獅童)は真柴たちに従うように命令を受けて彼らに同行します。

森脇女学校の20名の少女(12~13歳)と引率の野口先生(ユースケ・サンタマリア)は学校を離れ、その財宝を奥多摩の洞窟に隠す作業に従事します。

もうすぐ作業が終わろうという時に、真柴は上層部からとても理不尽な命令を受けるのでした。

 

この映画は年老いた望月曹長が亡ったのをきっかけに、その妻(この作業に従事した女学生の級長)が作業の様子を回想し、戦後の話はGHQでマッカーサーの通訳だった日系二世のイガラシが回想するという構成になっています。

ここから多少ネタバレもしますがお赦しください。

軍人は戦争の中で自分が死ぬ理由を探しているという時に、秘密を抱えて生き延びるという使命は死ぬことよりも難しい任務ではないかと思います。秘密を隠匿しつつ、皇軍が負けるという今までにない価値観をつきつけられながらも、お国のためと生き生きと作業に従事する少女達の姿に触れて、真柴達は生きることが必要だと気持ちが変わっていったかのように思います。

自分以外に吐き出すことを許されず重いものを背負いながらも、汗を流す彼女たちへ向ける真柴の優しげなまなざしがとても印象的です。

彼女たちは未来のこの国のために生きなければいけないと真柴達の考えを確固たるものにしたのが、作業終了間際に受けた命令なのでした。その後の真柴達は軍人として命令に従うのか、もう戦争は終わるのだからこれからの日本のために命令を無視してまで生きることを選ぶのがいいのか苦悩する姿は生々しいと感じます。しかし、その苦悩からの迷いが少女たちが悲痛な最後を招いたように思います。

教師は生徒を引率するのが役目ですからと言って拳銃を手に取る野口先生の子ども達を教え導こうとする姿は涙ものです。野口先生は平和主義者であり、西洋文学を生徒たちにも紹介していたため、憲兵に捕らえられてしまいますが、それでも明るく前向きに生徒たちを励まし一緒に汗を流す姿は素晴らしいと思います。

終戦後、小泉はマッカーサーに財宝を材料に国家復興のためにマッカーサーと直談判をし、小泉の提案を拒否したマッカーサーに対して、やがて日本の産業はアメリカの脅威になると脅しをかけてその場で自決します。彼がマッカーサーに伝えたかったことは、純朴すぎるゆえに悲劇に見舞われたあの少女たちのことなのではないでしょうか。

日輪の遺産は単にマッカーサーの財宝を指すだけではなく、戦争から生き延びた人が何を背負ってきたか、死んでいった人が遺そうとしたその想いのことなのではないかとも思います。

戦争の映画の感想というと短絡的に戦争は悲惨だとばかり繰り返していう人もいます。もちろん自分も戦争や紛争がないことを望んではいますが、このごろの映画は戦争は悲惨だというだけでは済ませられない作品が多くなっていると思います。

戦争を舞台にした映画では新藤兼人監督の“一枚のハガキ”が気になるのですが、新潟での上映はまだ決まっていないようです。

余談になりますが、この映画の劇中では少女たちが“比島決戦の歌”を歌う場面が何度かありますが、この曲を作った人たちは演奏や表現の規制に反発の気持ちを抱きながらもこんな戦意を鼓舞するような曲を作らされてたのもかわいそうな話ですね。

2011年08月28日ユナイテッド・シネマ新潟にて鑑賞

 

日輪の遺産 (講談社文庫)

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